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社長が老齢年金の繰下げについて誤解しないために事前に確認しておきたいことは?

在職老齢年金制度と繰下げの関係について誤解している社長からの相談が多い

(2023年7月19日)
老齢年金の繰下げ制度は難解なため、日本年金機構のホームページでも様々な注意点が列挙されています。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-02.html

特に社長の年金の繰下げは、在職老齢年金制度も関係するため複雑ですので、正確に理解するにはかなりの時間がかかります。

したがって、在職老齢年金制度と繰下げの関係について誤解している社長様からの相談も多いです。

 

65歳からの老齢基礎年金や老齢厚生年金を66歳以降まで(最高75歳まで)繰り下げるかどうかについては、繰下げによって生じるメリットとデメリットの両方を確認した上で検討することが重要です。

 

社長の年金を繰り下げても、「ねんきん定期便」のイメージ図通りには増えないのが通常

しかし、繰下げによるメリット・デメリットを確認しないまま、将来繰下げを選択するつもりで、年金を請求せずにいる社長様も多いです。
 

日本年金機構から届く「ねんきん定期便」等の書類を見て、老齢厚生年金の繰下げによる年金増額メリットについて完全に誤解している社長様が多いところです。

報酬が高いため老齢厚生年金(報酬比例部分)が全額支給停止となるような報酬を受けている方が老齢厚生年金を何歳まで繰り下げたとしても、老齢厚生年金(報酬比例部分)は全く繰下げ増額されません。
 

このことを知らずに、「ねんきん定期便」に記載されている、

65歳時の年金を70歳まで繰り下げると、年金額が1.42倍に増える

65歳時の年金を75歳まで繰り下げると、年金額が1.84倍に増える

という単純なイメージ図通りの増え方で自分の場合も年金額が増える、と誤解をしている方がとても多いです。

これは、ご自身が年金を繰り下げた場合のメリットについて間違って過大な金額を想定してしまっている状態といえます。

ですから、このような誤解をしたまま繰下げ待機をすると、後で後悔することとなってしまいます。
 

退職者や老齢厚生年金(報酬比例部分)が全額支給されている人の場合は、老齢基礎年金および老齢厚生年金を繰り下げると、老齢基礎年金や老齢厚生年金(経過的加算部分)だけでなく老齢厚生年金(報酬比例部分)も「ねんきん定期便」のイメージ図通りに繰下げ増額されるのですが、そのような社長は少ないです。
 

ほとんどの社長様の場合、「ねんきん定期便」に記載されている繰下げイメージ図を信じてはいけません。
 

まずは、自身の場合の繰下げによるメリットを、イメージではなく具体的な年金増額の見込額として正確に確認することが最初に必要です。

できれば、65歳前の特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢を迎えたときに確認することが望ましいですが、支給開始年齢を過ぎている方の場合も、できるだけ早急に確認することが重要です。

老齢厚生年金(報酬比例部分)が一部でも支給停止となっている社長様で、既に65歳以上となっているもののまだ65歳からの年金の請求をしていない方は、残念ながら繰下げによる増額メリットが完全にはもう生じなくなってしまっているのですが、今後の対応を検討するために、やはり、繰下げによる正確な年金増額の見込額を早急に確認していただくことが望ましいです。

 

(参考)「ねんきん定期便」の老齢年金見込額イメージ図に注意

社長の年金を繰り下げた場合の試算結果を年金事務所で確認する

それでは、社長の年金繰下げによるメリット(具体的な年金増額の見込額)を確認いただくにはどうすればよいでしょうか。
 

繰下げについて誤解している社長様に誤解に気づいていただくためには、ご自身が現状の報酬設定のまま働き続けて老齢基礎年金および老齢厚生年金を繰り下げた場合の試算結果を年金事務所で受け取って確認していただくことが、最も有効です。

具体的には、年金事務所
https://www.nenkin.go.jp/section/soudan/index.html
の予約相談
https://www.nenkin.go.jp/section/guidance/yoyaku.html
で、繰下げをした場合の年金見込額を試算してもらい、「試算結果」を印刷してもらいます。
 

例えば、昭和356月生まれ男性(63歳・特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢は64歳)の社長様がいま年金事務所の予約相談を利用した場合に、今後も現在の報酬設定のまま厚生年金保険に加入して働き続ける予定であることを伝えると通常必ずもらえる「試算結果」はどういうものか、また、繰下げ試算を依頼した場合にもらえる「試算結果」はどういうものかを、下記に一般例として説明します。
 

1.必ずもらえる試算結果

(1)64歳時の特別支給の老齢厚生年金の見込額

(2)65歳時の老齢基礎年金・老齢厚生年金の見込額
 

年金事務所の予約相談では、上記(1)(2)の試算結果は必ずもらえるでしょう。
 

なお、65歳以上70歳未満の間も厚生年金保険に加入して働き続ける場合は毎年10月分から老齢厚生年金額が増額改定されます。70歳以降も働き続ける場合は、70歳到達月の翌月分から老齢厚生年金額が増額改定されます。

65歳以降や70歳以降も働き続ける予定であれば、それぞれのタイミングでどの程度額面の年金額が増えるのかも確認しておきたいところですが、それらの試算をもらうためには、年金事務所の担当者に何歳(何か月)時の年金見込額が知りたいと伝えて試算依頼する必要があることが通常です。

したがって、65歳前の時点でそれらの試算依頼をしている社長様は少ないでしょう。

 
2. 繰下げ試算を依頼するともらえる試算結果

上記1(2)の年金を原則通り65歳から(65歳到達月の翌月分から)もらうのではなく66歳以降の希望する月まで繰り下げるとしたら、老齢基礎年金・老齢厚生年金がそれぞれいくらに増額されるかも、希望すれば年金事務所の予約相談で試算してもらえます。
 

この場合、それぞれの年金を何歳何か月まで繰り下げた場合の試算が欲しいなどと試算条件を伝えると、条件を踏まえた試算結果をもらえます。
 

例えば、現状の報酬設定のまま70歳以降も働き続け、老齢基礎年金・老齢厚生年金とも70歳(0か月)まで60月繰り下げると仮定した場合の試算を下さいと伝えると、(指示が職員に正しく伝わり、職員が入力ミスをしなければ)指定した条件を踏まえた試算結果を印刷してもらえます。
 

老齢基礎年金・老齢厚生年金のそれぞれについて何歳何か月まで繰り下げるか(および何歳何か月までどのような報酬設定で働き続けるか)を伝えれば、それぞれの年金について見込額を試算してもらえますが、繰下げと在職老齢年金制度の関係、今後も厚生年金保険に加入し続けることによる老齢厚生年金増額効果、繰下げ増額メリットについて正確に理解していただくために、まずは、現状の報酬設定のまま働き続けると仮定した場合の次の試算結果を依頼すればよいでしょう。

・老齢基礎年金・老齢厚生年金をともに70歳まで繰り下げる場合の試算結果

および

・老齢基礎年金・老齢厚生年金をともに75歳まで繰り下げる場合の試算結果(昭和2742日以後生まれの人に限ります)


 

(ポイント)

●社長の年金の繰下げに際しては、「ねんきん定期便」の増額イメージ図をそのまま信じてはいけない

●年金事務所の予約相談で、70歳まで(75歳まで)繰り下げた場合の試算結果を確認することが、社長の年金繰り下げについて誤解しないために最も有効

 

在職老齢年金制度と繰下げの関係について誤解しないためには、年金事務所でもらえる「試算結果」のどこに注意すればよいでしょうか

(2023年08月3日)

在職老齢年金制度と繰下げの関係について誤解しないためには、年金事務所でもらえる「試算結果」のどこに注意すればよいでしょうか。

繰下げをするかどうかを検討する前に社長がもらっておくべき「試算結果」について、以下の典型的な事例を用いて解説します。


【事例】
昭和341015日生まれ男性 A社長
令和5年8月1日現在現在63歳。令和51014日(誕生日の前日)に特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢(64歳)となるため、7月に日本年金機構から年金請求書が郵送されてきた。
現在の報酬月額は65万円・賞与なし
65歳までの特別支給の老齢厚生年金の年金額は144万円

この社長が、65歳からの老齢基礎年金や老齢厚生年金を繰り下げるかどうかを検討するために、まずは、現状の報酬設定のまま70歳以降まで働き続けると仮定した場合の、次の二つの「試算結果」を年金事務所の予約相談でもらってくるとしましょう。
 

1.65歳から(65歳到達月の翌月分から)の年金見込額が記載された「試算結果」

2.老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに70歳まで繰り下げる場合の年金見込額が記載された70歳から(70歳到達月の翌月分から)の「試算結果」(昭和2742日以後生まれの人が75歳まで繰り下げることを決めているような場合は、75歳まで繰り下げる場合の「試算結果」ももらうとよいのですが、まずは70歳まで繰り下げる場合の「試算結果」をもらうだけでも、制度について誤解することを防ぐためには役立ちます)


まず、上記1の「試算結果」で確認すべきポイントについて解説します。 

1.65歳から(65歳到達月の翌月分から)の年金見込額が記載された「試算結果
(1)65歳時の老齢基礎年金の見込額

上記1の「試算結果」には、例えば次のような印字がされています。

・老齢基礎年金の「定額」欄 728,750

・「基礎期間」のうちの「厚年2号」欄 440月(その他の「1号納付」「3号納付」「共済2号」「付加納付」「全免」「3/4」「半免」「1/4」欄はすべて 0月)
 

老齢基礎年金の「定額」欄に記載されている728,750円が、A社長が65歳から受給できる老齢基礎年金額の令和5年度現在の見込額です。

これは、A社長のこれまでの公的年金加入記録に基づいて次の計算式で計算されたものです。

・令和5年度の老齢基礎年金額795,000円(67歳到達年度以下の場合)×「厚船2号」の月数440月÷480月=728,750

A社長は60歳以降65歳までの間も代表取締役として働き続ける予定のため、国民年金に任意加入することはできません。したがって、現行の年金制度ではA社長の場合「厚船2号」の月数、つまり、(昭和3641日以降の)20歳以上60歳未満で厚生年金保険に加入した期間の月数(440月)のみが老齢基礎年金額に反映します。

この728,750円が、A社長が老齢基礎年金を66歳以降に繰り下げたときに増える「65歳時の老齢基礎年金額」です。

 
(2)65歳時の老齢厚生年金の見込額

また、1の「試算結果」には「65歳時の老齢厚生年金」について、例えば次のように記載されています。

・老齢厚生年金の
「基本年金額」欄 1,546,610

「報酬比例」欄 1,480,000

「差額加算」欄 66,610

「停止額」欄 1,480,000

「内訳合計額」欄  66,610

「基金代行額」欄 0

・「厚年期間」欄 500

65歳時の老齢厚生年金は「報酬比例」部分と「差額加算」(経過的加算部分ともいいます)との合計額です。

65歳までの特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)も65歳からの老齢厚生年金(報酬比例部分)も、年金額の計算式は以下の通りで同じです。

・(平均標準報酬月額×7.125/1000×平成153月までの厚生年金保険被保険者期間の月数)+(平均標準報酬額×5.481/1000×平成154月以降の厚生年金保険被保険者期間の月数)

ただし、計算式中の平均標準報酬額や平成154月以降の厚生年金保険被保険者期間の月数は、それぞれの年金支給開始年齢到達月の前月までの厚生年金保険加入記録に基づき計算されます。

これにより、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢到達月以降65歳到達月の前月までも厚生年金保険に加入し続けることによって、A社長の場合、65歳から(65歳到達月の翌月分から)の老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金が148万円と、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分・144万円)よりも年金額が増えます(実際には年金額は1円単位で計算されますが、ここでは、わかりやすいように148万円としています)。

しかし、A社長は報酬が高いため、在職老齢年金制度により65歳以降も「報酬比例」部分は全額支給停止です。

厚生年金基金に加入した期間もないため「基金代行額」は0円です。

結局、「差額加算」欄記載の66,610円が、A社長が現状の報酬設定のまま働く場合の65歳からの老齢厚生年金受給額です。

・「差額加算」の年金額=令和5年度定額単価1,657円(67歳到達年度以下の場合)×厚年期間の月数(上限480月(注))-老齢基礎年金の満額(67歳到達年度以下の場合)795,000円×「厚船2号」の月数440月÷480月20歳以上60歳未満の月数)=795,360円-728,750円=66,610

(注)「試算結果」記載の通りA社長の「厚年期間」の月数は、65歳到達月の前月までで「500月」ですが、上記計算式の前半部分の「厚年期間の月数」には480月の上限があります)

 

老齢厚生年金の「基本年金額」は「報酬比例」部分と「差額加算」からなる

そして、A社長の「65歳時の老齢厚生年金額」は、「報酬比例」部分+「差額加算」、つまり、「基本年金額」なのですが、A社長が現在の報酬設定のまま働き続けて、老齢厚生年金を繰り下げた場合に、繰り下げの効果によって年金額が増えるのは、「基本年金額」のうちの「差額加算」66,610円だけです。

「基本年金額」のうちの「報酬比例」部分148万円は、老齢厚生年金を何歳まで繰り下げても、繰り下げによる増額効果は全く生じません。

実際に繰り下げを検討している社長様に対してこのことを口頭で説明しても、なかなか理解してもらえないことが多いです。


また、繰下げた場合の「試算結果」を実際に確認しないまま老齢厚生年金を繰り下げ待機している社長様は、制度について大きな誤解をされている可能性が高いです。


しかし、現状の報酬設定のまま働き続けて、70歳まで繰り下げたと仮定した場合の「試算結果」を事前に年金事務所でもらえば、老齢厚生年金の「基本年金額」のうちの「報酬比例」部分に繰り下げ増額効果が全く生じないことは一目瞭然です。


繰下げた場合の「試算結果」を65歳前から確認しておくだけで、
・繰下げによる年金増額効果

65歳以降も厚生年金保険に加入し続けることによる年金増額効果
を混同して誤解したまま繰下げ待機する危険がなくなります。

この点について、A社長が70歳以降まで現在の報酬設定で働き続けて老齢基礎年金・老齢厚生年金とも70歳まで繰り下げると仮定した場合の「試算結果」の例を挙げて、後で、詳しく解説いたします。

 

(ポイント)

●年金事務所の「試算結果」で、今後も現在の報酬設定で働き続ける場合の65歳時の老齢基礎年金や65歳時の老齢厚生年金の見込額を確認できる
●「試算結果」における老齢厚生年金の「基本年金額」は、「報酬比例」部分と「差額加算」の合計額

 

老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰り下げる場合の「試算結果」のどこに注意すればよいか

(2023年08月09日)

すでにお伝えしました通り、65歳からの老齢基礎年金や老齢厚生年金を繰り下げるかどうかを検討するにあたっては、現状の報酬設定のまま70歳以降まで働き続けると仮定した場合の次の二つの「試算結果」を年金事務所の予約相談でもらってくることが重要です。


1.65歳から(65歳到達月の翌月分から)の年金見込額が記載された「試算結果」

2.老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに70歳まで繰り下げる場合の70歳から(70歳到達月の翌月分から)の年金見込額が記載された「試算結果」


上記1の「試算結果」で確認すべきポイントについてはすでに解説しましたので、以下では上記2の「試算結果」で確認すべきポイントについて解説いたします。



【事例】
昭和34年11月15日生まれ男性 A社長
現在63歳。令和5年11月14日(誕生日の前日)に特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢(64歳)となるため、8月に日本年金機構から年金請求書が郵送されてきた。

現在の報酬月額は65万円・賞与なし

65歳までの特別支給の老齢厚生年金の年金額144万円

65歳時の老齢基礎年金の年金額728,750円
65歳時の老齢厚生年金の「基本年金額」154万6,610円(「報酬比例」148万円・「差額加算」66,610円)

65歳到達月の前月までの「厚年期間」500月・「厚船2号」440月


A社長が前記2の「試算結果」を年金事務所で依頼すると、例えば、次のような印字がされています。

 

70歳から(70歳到達月の翌月分から)の老齢基礎年金について

まず、70歳まで繰り下げた場合の老齢基礎年金の見込額は、例えば、次のように印字されます。



▽「基礎繰下」欄 60月 +42.0%
▽「定額」欄 728,750円
「繰上下額」欄 +306,075円
「内訳合計額」欄 1,034,825円
▽「基礎期間」のうちの「厚年2号」欄 440月(その他の「1号納付」「3号納付」「共済2号」「付加納付」「全免」「3/4」「半免」「1/4」欄はすべて0月)


老齢基礎年金の「定額」欄は、65歳時と同額の728,750円です。
A社長が老齢基礎年金を66歳以降に繰り下げると、「65歳時の老齢基礎年金額」(728,750円)が「繰下げ月数(上限120月)×0.7%」増額されます。


70歳まで60月繰り下げると、70歳からの老齢基礎年金額は、「65歳時の老齢基礎年金額」728,750円が42%(60月×0.7%)繰下げ増額されます(306,075円繰下げ増額。「65歳時の老齢基礎年金額」が繰下げにより増額される額(年額)が「試算結果」の「定額」における「繰上下額」欄にプラス表示されます)。


結果として、「65歳時の老齢基礎年金額」(「定額」728,750円)と「繰上下額」306,075円の合計額、つまり、「内訳合計額」1,034,825円が70歳から受給できる老齢基礎年金額です。

 

70歳から(70歳到達月の翌月分から)の老齢基礎年金について

一方、70歳まで繰り下げた場合の老齢厚生年金の見込額は、例えば、次のように印字されます。



▽「厚年繰下」欄 60月 +42.0%
▽「基本年金額」欄 174万6,610円
「報酬比例」欄 168万円
「差額加算」欄 66,610円
「繰上下げ額」欄 27,976円
「停止額」欄 168万円
「内訳合計額」欄 94,586円
「基金代行額」欄 0円
▽「厚年期間」欄 560月


65歳到達月以降70歳到達月の前月までも厚生年金保険に加入し続けることによって「厚年期間」が500月から560月に60月増えるため、70歳から(70歳到達月の翌月分から)の老齢厚生年金(報酬比例部分)が168万円と、65歳時の老齢厚生年金(報酬比例部分・148万円)よりも年額20万円増えます(実際には年金額は1円単位で計算されますが、ここではわかりやすいように168万円としています)。


しかし、(厚生年金保険加入月数増により「報酬比例」部分の額面の年金額が増えても)現在の報酬設定で
働き続ける限り、在職老齢年金制度により70歳以降も「報酬比例」部分は全額支給停止です。


厚生年金基金に加入した期間はないため「基金代行額」は0円です。


そして、老齢厚生年金を70歳まで60月繰り下げたことによる繰下げ増額分は「繰上下げ額」欄に記載されている通り27,976円(注)だけです。


(注)A社長は65歳到達月の翌月から繰下げ申出月(70歳到達月)までの60月間、ずっと老齢厚生年金(報酬比例部分)が全額支給停止となる報酬設定で働き続けるため、老齢厚生年金を70歳まで繰り下げることによる年金増額は、「繰上下げ額」欄記載の通り27,976円(65歳時の「差額加算」66,610円×繰下げ月数60月×0.7%)となります。


なお、A社長は65歳到達月の前月までの「厚年期間」が480月以上ですので、65歳到達月以降厚生年金保険に加入しても「試算結果」欄の「差額加算」欄の金額は増えません。したがって、70歳からの「差額加算」も65歳時の「差額加算」と同額の66,610円です。


結局、老齢厚生年金を70歳まで繰下げて70歳以降も現在の報酬設定で働く場合のA社長の老齢厚生年金受給額は、「内訳合計欄」記載の通り年額94,586円(「差額加算」66,610円+「繰上下げ額」27,976円)です。

 

A社長が70歳まで60月老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰り下げることによる増額効果(まとめ)

 まとめると、A社長が70歳以降まで現状の報酬設定で働き続け、70歳まで老齢基礎年金および老齢厚生年金を繰り下げると、各年金について次のような繰下げ増額効果が生じます。



1.65歳時の老齢基礎年金728,750円は、繰下げにより1.42倍(1,034,825円)に増える

2.65歳時の老齢厚生年金1,546,610円は、繰下げにより1.42倍(2,196,186円)に増えるのではなく、27,976円増えるだけ。

  

65歳から70歳までの厚生年金保険継続加入による年金増額と厚生年金保険料

A社長が繰下げする・しないに関わらず、65歳から70歳までの5年間厚生年金保険に加入し続けることによって額面の老齢厚生年金は年額20万円増えますが、70歳以降も現状の報酬設定のまま働き続ける限り、70歳で老齢厚生年金を繰下げ申出していたとしても、受給できる老齢厚生年金は年額94,586円です。



なお、A社長の厚生年金保険料(会社負担分・本人負担分計)は、月額118,950円です。
したがって、65歳から70歳までの5年間分の厚生年金保険料合計(会社負担分・本人負担分計)は、713万7,000円(月額118,950円×12か月×5年)となります。
 

二つの年金増額効果を混同している社長が多いので注意

繰下げを検討している社長様の多くが次の二つの年金増額効果の違いを混同されているのですが、特別支給の老齢厚生年金の請求書が届いた頃までに、65歳時の年金を繰下げした場合の「試算結果」を年金事務所で確認しておくだけで、誤解を防ぐことができます。



(1)65歳以降も厚生年金保険に加入することによって年金額がいくら増えるか
 つまり、老齢厚生年金の「基本年金額」欄(「報酬比例」欄および「差額加算」欄)がいくら増えるか

(2)年金を繰り下げることによって年金額がいくら増えるか
 つまり、老齢基礎年金の「繰上下額」・老齢厚生年金の「繰上下げ額」欄のプラス表示がいくら増えるか



 

老齢厚生年金の繰下げ増額分は、在職老齢年金制度の対象とならない

なお、厚生年金保険に加入して働き続ける場合の老齢厚生年金については、


(1) 厚生年金保険加入により「基本年金額」のうちの「報酬比例」部分が増えた分は、在職老齢年金制度の対象となります。

つまり、年金支給停止額計算式中の「基本月額」
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/zaishoku/20150401-01.html
に含まれます。


(2) 繰下げによって生じる「繰上下げ額」欄のプラス表示分は、(「差額加算」が繰下げ増額された分に限らず、「報酬比例部分」が繰下げ増額された分も)在職老齢年金制度の対象外です。


以上、物価・賃金の変動による年金額改定や今後の法改正がないものとして解説しました。


 

事前に対応策(報酬設定変更)をした上で年金を繰り下げるとどうなるか

もし事前に対応策を採った上で、65歳からの老齢基礎年金・老齢厚生年金を例えば70歳まで繰り下げるとすると、どうなるでしょうか。



ここでの対応策とは、遅くとも65歳到達月の前々月支給分以降の役員報酬設定が変更できるようなタイミングで、それまでに開催する定時株主総会等で役員報酬設定変更を決議して、65歳到達月の翌月から繰下げ申出をする月までの各月において、(65歳時の)老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給停止額ができるだけ少なくなるように変更しておく、ということです。



66歳から75歳までの希望する月まで繰り下げて老齢厚生年金を受けたい場合も、
繰下げせずに65歳から老齢厚生年金を受けたい場合と同様に、
上記のタイミングで報酬設定を変更しておく必要があります。
(このことは、一般に多くの社長様にとって理解が難しいようですが、とても重要なポイントです)


もし上記のタイミングで、年収を変えずに報酬設定だけを変更しておいた上で、老齢基礎年金・老齢厚生年金を70歳まで繰り下げるとしたら、どうなるでしょうか。


この場合の年金見込額の「試算結果」を前述のA社長が年金事務所でもらうと、「試算結果」の
印字内容はどのようなものとなるかを、以下に解説します。


【事例】
昭和34年11月15日生まれ男性 A社長現在63歳。令和5年11月14日(誕生日の前日)に特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢(64歳)となるため、8月に日本年金機構から年金請求書が郵送されてきた。

現在の報酬月額は65万円・賞与なし

65歳までの特別支給の老齢厚生年金の年金額144万円

65歳時の老齢基礎年金の年金額728,750円
65歳時の老齢厚生年金の「基本年金額」154万6,610円(「報酬比例」148万円・「差額加算」66,610円)

65歳到達月の前月までの「厚年期間」500月・「厚船2号」440月

 

1.70歳から(70歳到達月の翌月分から)の老齢基礎年金はどうなるか

まず、70歳まで繰り下げた場合の老齢基礎年金の見込額は、事前に報酬設定を変更しない場合と変わりがありません。

年金事務所でもらえる「試算結果」でも、前述の場合と同じく、次のように印字されます。


▽「基礎繰下」欄 60月 +42.0%
▽「定額」欄 728,750円
「繰上下額」欄 +306,075円
「内訳合計額」欄 1,034,825円
▽「基礎期間」のうちの「厚年2号」欄 440月
(その他の「1号納付」「3号納付」「共済2号」「付加納付」
「全免」「3/4」「半免」「1/4」欄はすべて0月)


老齢基礎年金の「定額」欄は、65歳時と同額の728,750円です。
A社長が老齢基礎年金を66歳以降に繰り下げると、「65歳時の老齢基礎年金額」(728,750円)が「繰下げ月数(上限120月)×0.7%」増額されます。


70歳まで60月繰り下げると、70歳からの老齢基礎年金額は、「65歳時の老齢基礎年金額」728,750円が42%(60月×0.7%)繰下げ増額されます(306,075円繰下げ増額。「65歳時の老齢基礎年金額」が繰下げにより増額される額(年額)が「試算結果」の「定額」における「繰上下額」欄にプラス表示されます)。


結果として、「65歳時の老齢基礎年金額」(「定額」728,750円)と「繰上下額」306,075円の合計額、つまり、「内訳合計額」1,034,825円が70歳から受給できる老齢基礎年金額です。
 

 

2.70歳から(70歳到達月の翌月分から)の老齢厚生年金はどうなるか

一方、70歳まで繰り下げた場合の老齢厚生年金の見込額は、例えば、次のように「試算結果」に印字されます。



▽「厚年繰下」欄 60月 +42.0%
▽「基本年金額」欄 164万6,610円
「報酬比例」欄 158万円 
「差額加算」欄 66,610円 
「繰上下げ額」欄 649,576円 
「停止額」欄     0円  
「内訳合計額」欄 2,296,186円
「基金代行額」欄 0円
▽「厚年期間」欄 560月
 

先に確認した通り、現状の報酬設定のまま65歳到達月以降70歳到達月の前月までも厚生年金保険に加入し続けると、70歳から(70歳到達月の翌月分から)の老齢厚生年金(報酬比例部分)が168万円と、65歳時の老齢厚生年金(報酬比例部分・148万円)よりも年額20万円増える見込みでした(実際には年金額は1円単位で計算されますが、ここではわかりやすいように168万円としています)。

しかし、老齢厚生年金(報酬比例部分)が全額支給されるような報酬設定となるように事前に変更しておいた上で65歳到達月以降70歳到達月の前月までも厚生年金保険に加入し続けると、この事例では、70歳から(70歳到達月の翌月分から)の老齢厚生年金(報酬比例部分)が158万円と、65歳時の老齢厚生年金(報酬比例部分・148万円)よりも年額10万円増えるだけとなります(実際には年金額は1円単位で計算されますが、ここではわかりやすいように158万円としています)。



このことから、事前に対応策を採っておくと、採らないままの場合と比べて、
上記「(1)65歳以降も厚生年金保険に加入することによって年金額がいくら増えるか」、
つまり、老齢厚生年金「基本年金額」欄(およびこの事例では「報酬比例」欄)がいくら増えるかが、少なくなることがわかります。



一方で、「繰上下げ額」は、先述の27,976円ではなく、649,576円となります。
649,576円の内訳は、27,976円(65歳時の差額加算の額66,610円×0.7%×60月)+621,600円(65歳時の老齢厚生年金(報酬比例部分)148万円×0.7%×60月)です。


このことから、事前に対応策を採った上で繰り下げると、採らないまま繰り下げる場合と比べて、上記「(2)年金を繰り下げることによって年金額がいくら増えるか」、
つまり、老齢厚生年金の「繰上下げ額」欄のプラス表示がいくら増えるかが多くなることがわかります。


(わかりやすいように、事前に対応策を採った上で繰り下げる場合の試算結果を以下に再掲し、各欄の数字の後ろに、事前に対応策を採らないまま繰り下げる場合の試算結果を「(←○○円)」の形で追記します。)



▽「厚年繰下」欄 60月 +42.0% (←60月 +42.0%)*変わらず
▽「基本年金額」欄 164万6,610円 (←174万6,610円)
「報酬比例」欄 158万円 (←168万円)
「差額加算」欄 66,610円 (66,610円)*変わらず
「繰上下げ額」欄 649,576円 (←27,976円)
「停止額」欄     0円  (←168万円)
「内訳合計額」欄 2,296,186円(←94,586円)
「基金代行額」欄 0円    (←0円)*変わらず
▽「厚年期間」欄 560月 (←560月)*変わらず



A社長の場合、70歳以降も引き続き老齢厚生年金(報酬比例部分)が全額受給できるような報酬設定で働き続けると、上記試算結果の「内訳合計欄」記載の通り、老齢厚生年金だけで年額2,296,186円受給できます。


先に確認した通り、現状の報酬設定のまま70歳以降までずっと働き続けて70歳まで繰り下げると、
先に確認した試算結果の「内訳合計欄」記載の通り、在職中は老齢厚生年金はわずか94,586円しか受給できませんでした。


両者の差額は年額2,201,600円です。


万一、A社長が生涯現役で働き続けることを希望しており90歳で亡くなるとしたら、今後70歳以降も現状の報酬設定のまま働き続ける場合と、今後70歳以降も老齢厚生年金(報酬比例部分)が全額受給できる報酬設定のまま働き続ける場合とでは、トータルの老齢厚生年金受給額には4,403万2,000円(2,201,600円×20年)もの差が生じてしまいます。



なお、65歳以降も70歳以降も、老齢厚生年金(報酬比例部分)を全額受給できる報酬設定は何通りも考えられます。


役員報酬年額は現在と同額であっても構いませんし、現在と異なる額にしても構いません。
なお、役員報酬年額は変えずに老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給できるような報酬設定のコンサルティングについては、「年金復活プラン」ページで解説しています。


具体的にどのような報酬設定とするかによって、「試算結果」は変わります(A社長のケースで年収を変えずに老齢厚生年金の「繰上下げ額」が649,576円となる場合に限っても、今後の報酬設定をどのようなものとするかによって、70歳以降の「報酬比例」は、例えば、年額155万円程度となるケースもありますし、年額162万円程度となるケースもあります)。



また、70歳になるまでの間具体的にどのような報酬設定にするかにより、70歳までの厚生年金保険料や子ども・子育て拠出金が変わり、75歳になるまでの間具体的にどのような報酬設定にするかにより、75歳までの健康保険料が変わります。


老齢厚生年金(報酬比例部分)が全額支給停止となるような報酬設定とした上で老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰り下げた場合の「試算結果」例について最初に解説し、老齢厚生年金(報酬比例部分)が全額受給できるような報酬設定とした上で老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰り下げた場合の「試算結果」例についてその後に解説しました。


これら以外にも、もちろん、老齢厚生年金(報酬比例部分)の一部だけ受給できるような報酬設定とした上で老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰り下げるケースもあります。


この場合は、今回の「試算結果」よりは、(1)65歳以降も厚生年金保険に加入することによって年金額がいくら増えるかの効果額は増えるものの(2)年金を繰り下げることによって年金額がいくら増えるかの効果額は減ります。社会保険料(会社負担分および本人負担分)がどの程度変わるかは、具体的な報酬設定によります。

社会保険料(会社負担分)が変わると、会社の法人税等負担や会社に残る現金の額が変わります。し、社会保険料(本人負担分)が変わると、本人の所得税・住民税負担や本人の手取り額が変わります。



以上、65歳からの老齢基礎年金・老齢厚生年金を70歳まで繰り下げて70歳以降も働き続ける場合の「試算結果」を題材に、65歳までに事前に報酬設定を変更しておくことの重要性を詳しく解説しました。


繰下げを検討されている社長様も繰下げを検討されていない社長様も、これまでの解説をじっくりお読みいただくことで、できる限り65歳までに事前に報酬設定を変更しておくことの重要性をご理解いただけるかと存じます。
 

ご自身の繰下げ試算結果を確認されたい社長様へ

65歳を過ぎても(1)65歳以降も厚生年金保険に加入することによって年金額がいくら増えるかの効果額や(2)年金を繰り下げることによって年金額がいくら増えるかの効果額を確認しないまま、「いずれ退職してから年金を請求したら年金が増えてもらえるだろう。今は会社からの報酬があるので、年金は請求せずに70歳まで繰下げして年金を1.42倍に増やそう」と考えておられる社長様も多いと思いますが、事前に(1)(2)を確認いただくだけで、このままでは想定されているような年金増効果は得られないことがわかります。



しかし、事前に上記(1)(2)を年金事務所で確認する社長様は少ないでしょう。


もし確認したとしても、年金事務所で受領した「試算結果」を後で見返してみて、(1)(2)がそれぞれいくらかを、「試算結果」から正しく読み解くことができる方は多くないと思われます。

また、「(2)年金を繰り下げることによって年金額がいくら増えるか」がご自身の想定よりも少なくなっていたとしても、事前に適切な対応策を採ることができる方も多くないでしょう。
 

日中に年金事務所に試算結果をもらいにいく時間がない社長様・年金事務所でどのように依頼すればわからない社長様のために、繰下げ試算結果を社長様に代わって私(奥野)が年金事務所にて社長様の代わりにもらってきて、試算結果に基づいた簡単な報告書とともにご送付することもできます


●希望される社長様(50歳以上の方に限ります)は、「年金復活プラン」の「お試しコンサル」(導入企画サービス。お一人5.5万円(税込))をお申込みいただきます際に、申込書裏面に「繰下げ試算も希望」と明記の上お申し込みください。

(注)以下の方は、繰下げ試算の代理受領をご依頼いただけません。
遺族年金や障害年金の受給権がある方
・65歳からの老齢厚生年金の請求手続きが終わっている方(65歳までの特別支給の老齢厚生年金の請求はされていても、65歳からの老齢厚生年金を請求されていなければ、
繰下げ試算の代理受領をご依頼いただけます



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所長の奥野です。

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