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(平成28年8月9日)
平成27年10月に被用者年金一元化法が施行され、厚生年金保険の適用事務が変更になったことは、今までにも何度か情報提供しています。
昭和12年4月1日以前に生まれた方の70歳以上被用者該当届の提出が漏れている結果、本来受給してはいけない老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給してしまっている例がある、という問題についてもお知らせしたことがあります。
平成27年10月1日以降、それまでは「厚生年金保険70歳以上被用者該当届」の届出対象外とされていた昭和12年4月1日以前生まれの方についても、報酬と年金との調整のしくみ(在職支給停止)の対象となり、70歳以上被用者該当届の提出が必要となったのですね。
年金事務所からもお知らせがありましたので、多くの事業所さんでは、70歳以上被用者該当届を提出されたと思います。
「厚生年金保険70歳以上被用者該当・不該当届」という届出書タイトルの「該当届」に○を付けて、次の事項を記載する必要があったわけですね。
・被用者の氏名
・被用者の氏名
・基礎年金番号
・生年月日
・事業所整理記号
・事業所番号
・届書処理区分(「1.該当」に○)
・該当年月日(平成27年10月1日)
・報酬月額(通貨によるものの額・現物による
ものの額・合計)
そして、特に注意が必要であったのは、備考欄への記載です。
昭和12年4月1日以前生まれで、平成27円9月30日以前から引き続き勤務している方にかかる70歳以上被用者該当届については、備考欄に「平成27年9月30日以前より継続」と記載した上で、該当年月日を平成27年10月1日として提出することとされたのですね。
なぜ、備考欄にこのような記載をすべきなのでしょうか。
それは、同じ昭和12年4月1日以前生まれで、厚生年金適用事業所から報酬を受けて常勤勤務
している人であっても、次のいずれに該当するかで、老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給停止額計算のしくみが異なるからです。
1.平成27年10月1日以降勤務し始めた場合
2.平成27年9月30日以前から引き続き平成27年10月1日以降も勤務している場合。
1に該当する人はほとんどおられないと思います。
78歳以上の方が新たに働き始めたというケースですからね。
この場合は、通常の65歳以上の在職老齢年金の計算式が次の通り適用されます。
・「総報酬月額相当額」に相当する額と「基本月額」との合計が47万円以下であれば老齢厚生年金(報酬比例部分)は全額支給。
・「総報酬月額相当額」に相当する額と「基本月額」との合計額が47万円を超えた場合は、超えた部分の2分の1だけ、老齢厚生年金(報酬比例部分)を支給停止。
一方、該当者が多い2のケースは、9月30日まではいくら報酬が高くても年金がもらえていた人たちです。
それが、改正があったからといって、10月からいきなり1の人達と同じ原則的な計算式で年金が支給停止されてしまうと、不満が生じますよね。
このような場合、年金では、「激変緩和措置」というものが設けられることがあります。
今回の改正に際しても、一定の激変緩和措置が設けられることとなりました。
平成27年10月1日以降、報酬との調整で年金を支給停止にはするものの、原則的な計算式を用いるよりは支給停止額が少なくなるような特例措置を適用する、ということですね。
この激変緩和措置について、日本年金機構が作成している説明用のチラシでは、「報酬と年金の合計の10%が支給停止額の上限額です。との表現がされています。
70歳以上の方はもう厚生年金被保険者ではないので、「総報酬月額相当額」・「標準報酬月額」というもの自体がないため、簡単に「報酬」という表現が使われています。
正確には
「総報酬月額相当額」に相当する額と「基本月額」との合計の10%が(月額換算の)報酬比例部分の年金の支給停止の額の上限です。
過去1年に賞与受給がない方の場合は、
「標準報酬月額」に相当する額と「基本月額」との合計の10%が(月額換算の)報酬比例部分の年金の支給停止の額の上限となります。
なお、「基本月額」とは、「老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額」÷12のことをいいます。
差額加算や老齢基礎年金は含みません。
例えば、報酬月額が62万円、老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額が180万円の方の場合、
老齢厚生年金(報酬比例部分)の支給停止額の上限(月額)は次の通りとなります。
{62万円(標準報酬月額に相当する額)+180万円÷12}×10%
=7.7万円
したがって、年間の支給停止額合計は、
924,000円(7.7万円×12)となります。
なお、平成27年9月30日以前から引き続き継続勤務の方(支給停止額の激変緩和措置が適用される人)について、正しく届出がされている場合に、年金事務所で「70歳以上被用者記録照会回答票」を確認してもらうと、次のような記載がされているのがわかります。
・性別
・氏名
・生年月日
・基礎年金番号
・整理番号
・年月日
・月額・賞与額
・原因 在職継続
「原因」が「在職継続」となっています。
そして、この場合、「制度共通年金見込額照会回答票」の「70歳以降被用者記録」の個所に、27.10.1という日付や、平成27年10月1日現在の標準報酬月額に相当する額以外に、「72」という数字が入っています。
また、「停止額」欄にも激変緩和措置を適用した試算結果が印字されてきます。
しかし、70歳以上被用者該当届が正しく提出されていない場合は、(「72」が入力されていないままでは)、激変緩和措置を適用しない原則的な計算式で試算した結果(支給停止額が大きいもの)が印字されてしまいます。
以上、今回は、昭和12年4月1日以前生まれの方の場合に絞って解説しましたが、昭和12年4月2日以降生まれの方(平成27年9月30日以前から「70歳以上被用者該当届」の提出が必要な方)についても、届出漏れが調査等で発覚して保険料の追徴や受給した年金の返還を命じられる例も多いと思われますので、ご注意ください。
会計検査院の検査についてお聞きになったことはありますでしょうか。
「会計検査院は、国会及び裁判所に属さず、内閣からも独立した憲法上の機関として、
国や法律で定められた機関の会計を検査し、会計経理が正しく行われるように監督する
職責を果たしています。」
(会計検査院ホームページより引用)
会計検査院のホームページでは現在、平成26年度決算検査報告の概要が掲載されています。
そして、検査の結果、法律、政令若しくは予算に違反し又は不当と認めた事項についても
公開されています。
厚生労働省関連の不当事項の中には、次のような事項も報告されています。
・健康保険及び厚生年金保険の保険料の徴収に当たり、徴収額が不足
東北、北関東・信越、南関東、中部、近畿、中国、四国、九州の132の年金事務所が管轄する438事業所において、常勤の者について、被保険者資格取得届が提出されていなかったり、被保険者資格取得届は提出されているものの資格資取日について事実と相違した年月日を記載したりしている例が発見されたそうです。
健康保険料2.8億円、厚生年金保険料約5.5億円、合計8.3億円の徴収不足額については、会計検査院の指摘により、全て徴収決定の処置が執られたそうです。
・老齢厚生年金の支給が不適正
北関東・信越、南関東、近畿、中国、九州の20年金事務所が管轄する24事業所の60歳代前半の39人について、厚生年金保険適用事業所で常勤勤務しているため厚生年金保険の被保険者とする必要があるのに、被保険者資格取得届が提出されていなかったとのことです。
これにより、本来報酬との調整のしくみ(在職老齢年金)によって特別支給の老齢厚生年金が支給停止となるところ、支給されてしまっていたものが約1,446万円あったとのことです。
不適正支出額については、会計検査院の指摘により全て返還の処置が執られたとのことです。
厚生年金保険の適用事業所の事業主は、被保険者の資格の取得・喪失、報酬月額、賞与額に関する事項を届出る義務があります。
(厚生年金保険法第27条)
事業主が、被保険者資格取得届を提出する義務を怠った結果、本来支払うべき保険料に漏れが生じたり、本来支給されるはずのない年金が支給されてしまう事態を引き起こしてしまったりしている例が会計検査院の検査で見つかり、不当だと指摘されたということですね。
これはもちろん違法なことですので、年金事務所が一般事業所を対象に行う通常の調査で判明した場合であっても、もちろん適切に届出を行うよう指導がされるべき内容ではあります。
ただ、最初に記載した通り、
「国や法律で定められた機関の会計を検査し、会計経理が正しく行われるように監督する」ために行われるのが、会計検査院の検査です。
そこで、法律等に違反した状態が認められたということになると、これはもう、例外なく全て是正すべきこととなるわけですね。
なお、厚生年金保険は政府が管掌し、第1号厚生年金被保険者(民間企業勤務の厚生年金被保険者)に関する様々な事務は厚生労働大臣が行い、厚生労働大臣の権限に係る事務の一部は日本年金機構に行わせるものとすることが、厚生年金保険法に定められています。
今回はちょっとマニアックな内容となりました。
パートタイマー等の加入漏れや、60歳以上役員・従業員の被保険者資格をごまかすことによる年金不正受給については、以前より年金事務所の一般的な検査においても、集中的に確認されることが特に多い事項です。
会計検査院の検査で、法律や法令に反して国に入るべきお金が足りていなかったり、国が支払うべきでないお金を支払っていることが判明したら、事業所・被保険者の方は返還をすべきこととなります。
また、今回触れた「70歳以上被用者該当届」だけでなく、報酬月額変更届や賞与支払届等の漏れにより保険料の追徴・年金の返還を命じられる例はよくみられます。
以上のことは、役員報酬最適化・年金復活プランを採用するかどうかとは直接関係はありませんが、一般に経営者の方に知っておいていただいた方がよい知識だと思いますので、解説して
みました。
(平成28年8月9日)
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