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(2025年1月22日・2024年12月26日・2024年11月26日・2024年10月7日・2024年7月15日・2024年5月14日・2023年12月6日・11月14日一部追記)(2023年11月6日)
このページは令和7年改正に関する検討・議論の状況について、時系列順に追記しています。
最新の状況を確認されたい方は、このページの一番下までスクロールしてお読みください。
在職老齢年金制度については昔から、
・廃止すべきだ
・見直すべきだ
・維持すべきだ
という異なった意見が出され、議論が行われ、多くの改正が行われてきました。
私どもが社長の年金についてインターネット上で情報を提供し始めた2013年以降に限ってみても、5年ごとの年金法改正に向けた議論の経緯が新聞・テレビ等で報道されるたびに、全国の社長様方からの「在職老齢年金制度は廃止されるのでしょうか」「在職老齢年金制度は見直しされるのでしょうか」などといった質問・相談が増える傾向にあります。
現状では、厚生年金保険や国民年金について、次回(令和7年)年金法改正に向けて議論が開始されたところです。
次回(令和7年)年金法改正で在職老齢年金制度の見直しや廃止が行われるかどうかは、現時点ではまだわかりません。
政府は、少なくとも5年ごとに保険料、国庫負担の額や給付に要する費用の額その他の国民年金事業・厚生年金保険事業の財政に係る収支について、その現況及び財政均衡期間(おおむね100年間)における見通し(「財政の現況及び見通し」)を作成・公表しなければならないことが国民年金法・厚生年金保険法で定められています。
これがいわゆる「財政検証」です。
前回財政検証は令和元年に行われましたので、次回財政検証は令和6年に行われる予定です。次回財政検証結果も踏まえて、次回年金法改正は令和7年に行われる見込みです。
したがって、在職老齢年金制度に限らず、現在社会保障審議会年金部会で議論が行われるたびに新聞・テレビ等で報道されているどのトピックについても、既に決定しているものはありません。
今後、次回年金改正法施行までの間は、報道に触れた社長様方からの相談が増えると思われますが、最も重要なことは、「現状ではまだ何も決まっていない」という正しい情報を得ていただくことです。
在職老齢年金制度に限らずインターネット上等では、社会保障審議会年金部会で現在議題に上がっていないようなトピックについて、すでに改正が決まっているとする誤った情報も多くみられます(例えば、年金の支給開始年齢が5年引き上げられて70歳になる、などの誤った情報が代表例です)。
そのような情報を見て年金について誤解をしてしまうことのないよう、十分ご注意下さい。
在職老齢年金制度改正に関する令和2年改正法までの主な流れを参考にすると、令和6年の財政検証結果や社会保障審議会年金部会での議論を踏まえ、令和6年末頃までに「社会保障審議会年金部会における議論の整理」が公表され、その中で令和7年公的年金制度改正の目指すべき方向性がまとめられると思われます。
その後、令和7年の国会で改正法が成立し公布された事項については、改正法に定められた施行日から、新たな規定が適用されることとなります。
令和2年改正における在職老齢年金制度見直しについては、(参考1)にまとめた通り、改正法が成立するまでにかなりの紆余曲折がありました。
令和7年改正に向けての在職老齢年金制度に関する議論についても、今後の社会保障審議会年金部会における動向や、来年公表される財政検証結果などにまずは注目していきたいところです。
(参考1)令和2年改正法の施行までの主な流れ
・平成30年4月4日:第1回社会保障審議会年金部会が開催。
・令和元年8月27日:第9回社会保障審議会年金部会にて「2019(令和元)年財政検証の結果について(報告)」が公表。併せて、65歳からの在職老齢年金制度について、基準額を47万円(当時)から62万円に引き上げた場合や制度を廃止した場合は、将来世代の年金給付水準(所得代替率)が下がる、とのオプション試算が公表。
・令和元年10月9日:第11回社会保障審議会年金部会において「高齢期の就労と年金受給の在り方について」が議論。65歳からの在職老齢年金制度の見直しの方向性として厚生労働省が、基準額の62万円への引上げ・制度の廃止の二案を提示。65歳までの在職老齢年金制度の見直しとして、基準額28万円(当時)のまま・基準額を65歳からの基準額と同額に引上げの二案を提示。
・令和元年10月18日:第12回社会保障審議会年金部会において「高齢期の就労と年金受給の在り方について」が議論。在職定時改定の導入等を厚生労働省が提示。
・令和元年11月13日:第14回社会保障審議会年金部会において「これまでの議論を踏まえて更にご議論いただきたい事項」が議論。高額報酬の年金受給者への給付増・将来世代の年金の所得代替率低下につながる点が批判を浴びていたこともあり、65歳からの基準額を51万円に引き上げ、65歳までの基準額を51万円または47万円(当時)に引き上げるとの見直し案を厚生労働省が提示。
・令和元年12月19日:「全世代型社会保障検討会議中間報告」において、65歳までの在職老齢年金制度の基準額を65歳からの基準額と同額の47万円(当時)に引き上げ、65歳からの在職老齢年金制度は現状のままとするも、65歳以上70歳未満の厚生年金保険被保険者には在職定時改定を導入する、との具体的方向性が示された。
・令和元年12月27日:「社会保障審議会年金部会における議論の整理」が公表。
・令和2年6月5日改正法公布:社長の年金にも重要な影響を与える改正(65歳までの在職老齢年金制度の基準額引上げ、65歳からの在職定時改定の導入、繰り下げ最高年齢の75歳への延長)はすべて令和4年4月1日施行。
(参考2)令和7年改正に向けた議論の現状
・令和4年10月25日:第1回社会保障審議会年金部会が開催。
・令和5年10月24日:第8回社会保障審議会年金部会において「高齢期と年金制度の関わり」が議論。
・令和5年11月21日:第9回社会保障審議会年金部会:「高齢期と年金制度の関わり②」「多様なライフコースに応じた年金の給付水準の示し方について」
(参考リンク:厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126721.html
令和5年10月24日に開催された第8回社会保障審議会年金部会の議題は「高齢期と年金制度の関わり」でした。
当日は、次の4つについて議論されました。
1.在職老齢年金制度
2.基礎年金の拠出期間延長
3.(国民年金・厚生年金保険における)マクロ経済スライドの調整期間の一致
4.年金生活者支援給付金
新聞・テレビ等では多くの国民に影響を与える事項が大きく取り上げられる傾向にありますので、今回の議題の中では上記2や3を中心に報道されていることが多いです。
多くの社長様方がお知りになりたいと思われる1.在職老齢年金制度については、今のところあまり大きく報道されていないようですので、参考までに当日議論に参加した各委員の在職老齢年金制度(注)への発言を大まかに区分すると、次の通りでした。
(1)制度を廃止すべき、とする意見
(2) 制度を見直すべき、とする意見
(3) 現行の制度を継続・維持すべき、とする意見
(4) 在職老齢年金制度に関する言及なし
(注)令和7年改正法成立時点では男性は老齢厚生年金の支給開始年齢が65歳の人がほとんどとなるため、今のところ、65歳からの在職老齢年金制度が議論の中心となっています。
当日の各委員の具体的な発言内容については、後日厚生労働省ホームページhttps://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho_126721.html
にて公表されます。
(参考)令和5年11月21日:第9回社会保障審議会年金部会 資料2「第8回年金部会でご要望があった資料・これまでの年金部会における主なご意見」
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001169571.pdf
の15ページから17ぺージに、在職老齢年金制度についてこれまでに出された意見がまとめられています。
(ポイント)
●次回財政検証は令和6年、次回年金法改正は令和7年に予定されている
●社会保障審議会年金部会で令和7年改正に向けた議論が開始されている
●改正内容は現状ではまだ何も決まっていない
(2024年5月14日)
これまでもお伝えしてきました通り、令和6年夏に、国民年金・厚生年金保険の5年に1回の「財政検証」が行われる予定です。
「財政検証」とは、国民年金・厚生年金保険事業の財政に係る収支について、その現況および今後おおむね100年間における見通しが作成される、というものです。
これらの年金は、おおむね100年間、つまり、すでに生まれている世代が、おおむね年金受給を終えるまでの期間の財政均衡を図ることが目指されています。
ただ、人口増減や経済状況等は常に変動しますので、少なくとも5年に一回は、年金制度の健康診断のような意味を持つ「財政検証」を行うこととなっています。
財政検証結果および「オプション試算」結果は社会保障審議会年金部会で公表され、厚生労働省
ホームページにも掲載されます。
それらの結果を元に、社会保障審議会年金部会において議論が深められ、令和6年12月に、それまで行われてきた年金部会での議論のとりまとめが行なわれます。
このとりまとめ結果をベースに、令和7年の通常国会で改正年金法の成立を目指す、というのが、次回
年金法改正に向けた大まかな流れです。
令和6年4月16日に開催された第14回社会保障審議会年金部会において、今夏の財政検証に合わせて次の5つの論点などについて「オプション試算」を行うという案が示されました。
1.被用者保険(健康保険・厚生年金保険)の更なる適用拡大
2.基礎年金の保険料拠出期間の45年への延長・給付増額
3.基礎年金(1階部分)と報酬比例部分(2階部分)のマクロ経済スライド調整期間の一致
4.在職老齢年金制度の見直し
5.厚生年金保険の標準報酬月額上限(現在65万円)の引上げ
(詳細は、下記資料の3ページ参照)
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001245419.pdf
経営者層の関心の高い4については、65歳以降の在職老齢年金制度を緩和(基準額を現行制度よりも引き上げ)した場合・廃止した場合、それぞれ、将来世代の年金水準にどのような影響が生じるか、の試算が公開されることと思われます。
これら5つのオプション試算が示されることについて、新聞・テレビ等で大々的に報道されている結果、インターネット上では多くの批判的な意見が見られているところです。
それらの批判的な意見の中には、「財政検証」や「オプション試算」の意味を誤解しているものも多くみられます。
先週末あたりから、それらを目にした社長様方からメール相談をいただくことが多くなっており、また、有料・予約制の電話相談・Zoom相談の際にもお問合せいただくことが増えています。
冒頭にもお伝えした通り、「財政検証」は、国民年金・厚生年金保険制度が長期間にわたって持続できるように、との目的達成のために定期的に行われるものです。
ですから、財政検証に合わせて行われるオプション試算も、各論点について見直しをすると仮定すると、長期的な目線でみて年金の財政収支にどのような影響があるかを試算する、というものです。
オプション試算結果を元に、今後の必要な制度改正の検討・議論を行っていくわけですね。
ですから、今夏の「オプション試算」に含まれた前記5つの論点について、令和7年年金法改正で改正されることが現時点で決まった、ということでは全然ありません。
実際、5年前の令和元年財政検証時にも、次の論点などについてオプション試算が行われていました。
1.被用者保険の適用拡大
2.在職老齢年金制度の見直し(65歳以降の 在職老齢年金制度を緩和または廃止した場合)
3.基礎年金の保険料拠出期間の45年への延長
4.就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大
5.厚生年金保険の加入可能年齢75歳への引上げ
その前の平成26年財政検証時にも、次の論点などについてオプション試算が行われていました。
1.被用者保険の適用拡大
2.在職老齢年金制度の見直し(65歳以降の 在職老齢年金制度を廃止した場合)
3.基礎年金の保険料拠出期間の45年への延長
(以上、詳細は厚生労働省が公表しています)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/zaisei-kensyo/index.html
被用者保険の適用拡大については、昔から何度も重要課題として挙げられていて、適用拡大したら
年金財政にどのようなプラスが生じるかが試算されてきたわけですが、結局これまでオプション
試算で示されてきたような抜本的な適用拡大は未だ実現していません。
令和2年年金法改正で、令和4年10月から101人以上企業・令和6年10月から51人以上企業の一定要件を満たす短時間労働者を被保険者とすることなどが決まっただけに過ぎません。
ですから、今夏の財政検証においても、これまで実現しなかったさらなる適用拡大について、様々な
パターンでのオプション試算が示される見込みです。
基礎年金拠出期間の45年への延長や65歳以降の在職老齢年金制度についても同様です。
これまでにもオプション試算が公開され、改正すると年金財政にどのような影響があるかが公開されてきました。
しかし、いずれの論点についても、これまでのところ全く改正されていません。
(令和2年年金法改正では、65歳以上の在職老齢年金制度の改正はされなかったものの、令和4年度から新しく在職定時改定の仕組みが導入されることとなりました。
また、65歳までの在職老齢年金制度について、令和4年度から基準額が65歳以降と同額に改正されることとなりました。
このときの経緯については、令和2年3月発刊の書籍「社長の年金よくある勘違いから学ぶ在職老齢年金」の第10章「在職老齢年金の今後」において詳しく解説しています)
以上みたように、オプション試算は長期的視点で行われるものであり、また、オプション試算が行われた論点が必ず翌年の年金法改正で改正されるわけではありません。
仮に、それらの論点について何らかの見直しを含む改正法が令和7年に成立することがあったとしても、成立した改正法で定める施行日までは、現行の制度が引き続き適用されます。
なお、オプション試算は、長期的観点からなるべく早期の見直しが望ましいと国が考えている論点のうち、試算結果・シミュレーションを数値で示しやすい性格の論点に限って行わざるを得ないものです。
数値で示すことが難しい論点であっても、制度の不備などの論点は早期に改正すべきですので、オプション試算が行われなかった論点であっても翌年の年金法改正で改正されることはあり得るわけです。
(令和7年改正に向けての議論の中でも、例えば、障害年金・遺族年金の見直し議論で上がっている
論点などは、オプション試算になじまないものが多いのですが、それらのうち令和7年に改正が実現するものがあることは、当然ありえます)
財政検証・オプション試算の目的を理解することなく、財政検証が行われると決まったもののうち、特に国民の負担増につながる改正のみを大きく取り上げて、その改正がすでに決まったかのような論調で煽るような報道・記事が、財政検証の年には毎回増える傾向があります。
それらの報道に惑わされて、いらぬ不安を感じたりする方が増えないよう、これまでと同様、今後も
、社会保障審議会年金部会での議論の内容や国が公開しているデータ等の一次資料を基に客観的な情報をお伝えしていきたいと考えております。
(参考1)
令和7年年金法改正に向けての各論点について、厚生労働省年金局長は約1か月前に、次のように公言しています。(50分強の動画より、発言のポイントのみ下記に抜粋します)
「政策メディア/政策分析ネットワーク」YouTubeチャンネルより
https://www.youtube.com/watch?v=IgtqGrXT1w0
<第208回 政策解説動画> 「次期年金制度改革の論点」
・基礎年金拠出期間の延長、マクロ経済スライドの調整期間の一致が多くの人に関係する重要な論点
・その他、被用者保険の適用拡大、年収の壁問題への対応、第3号被保険者制度の見直し、在職老齢年金制度の見直しが注目を浴びている
・在職老齢年金制度は、従来から賛否両論ある。
前回改正時には本格的に見直しに手を付けることができなかった。
この5年の間に、人手不足を背景に高齢者の就業率が上昇している。今後もその傾向は続くだろう。高齢者の働きやすい環境を阻害してしまわないように、さらなる議論の深まりを厚生労働省としては期待したい。
(参考2)
今夏の財政検証時にオプション試算が行われ論点のうち、実現可能性が高いものはどれかについては、専門家がいろいろ予想をしています。
例えば、4月13日の日本経済新聞には「公的年金見直し識者の声(1面参照)」として、次のような意見が掲載されていました。
・ニッセイ基礎研 中嶋邦夫氏
年金制度改正としては厚生年金の適用拡大が一番実現性が高い。
・慶応大教授 駒村康平氏
年金制度改正では、実現可能性が高いのは標準報酬月額の上限の見直しだ。
在職老齢年金制度は理論的な説明が必要だ。
就労を阻害するという意見もあるが、将来の給付水準へのマイナスの影響も考えられ、評価は分かれる。
(参考3)
財政検証・オプション試算を経て次回年金法改正の方向性が固まったとしても、国会に法案が提出されて改正法が成立しないと、改正は実現しません。
(令和2年改正に向けた議論では、方向性が固まるまでの段階で、高所得の高齢者優遇だとの批判が出て、結局年金改正法案に、65歳からの在職老齢年金制度の見直しは盛り込まれませんでした)
(2024年7月15日)
2024年(令和6年)7月3日の第16回社会保障審議会年金部会において、国民年金・厚生年金保険の財政検証結果に併せて、オプション試算結果が報告されました。
オプション試算とは、想定されている国民年金・厚生年金保険の改正のうち試算になじむものについて、改正を行ったら年金財政・将来の給付水準にどのような影響が生じるかを試算したものです。
今回は、財政検証結果に併せて、次の5つのオプション試算結果が公表されました。
下記の1が最も重要視されている改正です。2や3も本質的で重要な改正です。
社長様方にとっては、4や5がどうなるかが気になるところでしょう。
1.被用者保険の更なる適用拡大
(1):被用者保険の適用対象となる企業規模要件の廃止と5人以上個人事業所に係る非適用業種の解消を行う場合 (約90万人)
(2):(1)に加え、短時間労働者の賃金要件の撤廃又は最低賃金の引上げにより同等の効果が得られる場合 (約200万人)
(3):(2)に加え、 5人未満の個人事業所も適用事業所とする場合 (約270万人)
(4):所定労働時間が週10時間以上の全ての被用者を適用する場合 (約860万人)
2.基礎年金の拠出期間延長・給付増額
基礎年金の保険料拠出期間を現行の40年(20~59歳)から45年(20~64歳)に延長し、拠出期間が伸びた分に合わせて 基礎年金が増額する仕組みとした場合
3.マクロ経済スライドの調整期間の一致
基礎年金(1階)と報酬比例部分(2階)に係るマクロ経済スライドの調整期間を一致させた場合
4.在職老齢年金制度
就労し一定以上の賃金を得ている65歳以上の老齢厚生年金受給者を対象に、当該老齢厚生年金の一部または全部の支給を停止する仕組み(在職老齢年金制度)の見直しを行った場合
5.標準報酬月額の上限
厚生年金保険の標準報酬月額の上限(現行65万円)の見直しを行った場合
●在職老齢年金制度の見直しについて
従来の財政検証時にも給付と負担のバランスの観点から常にオプション試算の対象とされてきた在職老齢年金制度見直しの件ですが、今回は、就労拡大や人手不足への対応といった最近の経済・労働環境の変化への対応という観点からも、注目されているところです。
65歳からの在職老齢年金制度を廃止すると、働く年金受給者の受ける年金は全体として増えますが、将来世代の年金給付水準は下がります。
65歳からの在職老齢年金制度を廃止するとしたら、撤廃による給付増は次の通りと見込まれています。
2030年度:5,200億円
2040年度:6,400億円
2060年度:4,900億円
一方、将来の報酬比例部分の年金の所得代替率への影響は、マイナス5%とのことです。
(「過去30年投影ケース」における影響)
参考までに、在職老齢年金制度を撤廃する場合以外に、基準額(令和6年度現在は50万円)を53万円・56万円・59万円・62万円・65万円に引き上げると、それぞれ、支給停止者数・割合、支給停止額、給付増がどうなると見込まれるかの試算も示されました。
今回の試算については、「試算の便宜上」、「2027年度より見直しをした場合として試算」されています。
(以上、下記資料の11ページ参照)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001270562.pdf
●標準報酬月額の上限(現行65万円)の見直しについて
健康保険とは異なり、厚生年金保険の標準報酬月額の上限は現在65万円となっています(現在259万人(6.2%)が該当)。
この上限を引き上げると、該当者本人や企業の保険料負担は増えますが、該当者本人の報酬比例部分の額面の年金額も増えます。
また、将来世代の年金給付水準も上昇します。
今回のオプション試算では、厚生年金保険の標準報酬月額の上限を、75万円、83万円、98万円に引き上げた場合の3つの試算が示されました。
・75万円(上限該当者は168万人(4.8%)に)
・83万円(上限該当者は123万人(3.0%)に)
・98万円(上限該当者は83万人(2.0%)に)
健康保険の標準報酬月額の上限は現在139万円ですが、そこまでの上限引上げ試算は示されませんでした。
これらの試算についても、「試算の便宜上」、「2027年度より見直しをした場合として試算」されています。
また、今回、「標準賞与の上限は、上限該当者の賞与の水準を踏まえ、現行と同じと仮定」した試算が示されています。
(以上、下記資料の12ページ参照)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001270562.pdf
●今後の流れ
在職老齢年金制度についても標準報酬月額上限の引き上げについても、また、その他の論点についても、見直すかどうか、見直すとしたらどのようにするか、を今後年末まで年金部会で議論し、年末には議論の取りまとめが行われます。
その内容を基に、来年の通常国会に改正法案提出が行われる予定です。
とりまとめまでの年金部会での議論や、法案成立までの国会での議論により、どのような形に落ち着くかはまだわかりません。
●基礎年金の拠出期間延長・給付増額は来年の改正から外すことに
なお、2024年7月3日の年金部会では、オプション試算の「2.基礎年金の拠出期間延長・給付増額 」は次回改正を目指しての議論・検討対象から外すこととされました。
給付と負担両面の改正であることが広く国民に理解されていないため、誤解に基づく批判がインターネット上等で散見されている本論点ですが、女性・高齢者の就業増や積立金の運用収益増により、来年の改正で基礎年金の拠出期間延長・給付増額を実現しなかったとしても、年金財政・将来の給付水準低下には深刻な影響は生じないことが今回の財政検証で明らかになったこともあり、来年の年金改正に向けた本年末までの年金部会における議題としては、厚生労働省としては取り上げないこととする決断に至った、とのことでした。
(2024年10月7日)
2024年9月30日に経団連(一般社団法人日本経済団体連合会)が「次期年金制度改正に向けた基本的見解」を公表しました。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/064_honbun.pdf
公的年金や企業年金に関し令和7年改正を目指して現在社会保障審議会年金部会(年金部会、企業年金・個人年金部会)で議論が行われている事項についても、経団連としての考え方が明記されています。
(これは経団連としての意見ですから、この通りに改正されることが決まったというものではありません)
例えば、社長様方の関心の高い在職老齢年金制度については、次のような考え方が示されています。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・年齢に関わりなく高齢者が就労できる環境整備、働き方に中立な制度の構築などに向け、在職老齢年金は将来的に廃止すべき
①2025年改正では年金財政への影響も懸念されることから、対象者の縮小にとどめる
②2030年改正で制度の効果等を検証した上で、廃止に向けて本格的に検討
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その他の論点も含めて、2025年の年金改正に向けた経団連の「基本的見解」の概要は、次の資料にまとめられています。
https://www.keidanren.or.jp/policy/2024/064_gaiyo.pdf
(2024年11月26日)
2024年11月25日の社会保障審議会年金部会では、在職老齢年金制度(給与と年金の調整)について、次の3つの見直し案を厚生労働省が提示しました。
・年金(基本月額)と給与(総報酬月額相当額)を足して「50万円」(令和6年度)を超えたら、超えた分の半分、年金をカットするという基準額を「62万円」に引き上げる
・基準額を「71万円」に引き上げる。
・制度を廃止する
(参考資料:「在職老齢年金制度について」厚生労働省年金局)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001337884.pdf
2024年7月3日の時点では、制度を廃止した場合や、基準額を53万円、56万円、59万円、62万円、65万円に上げた場合の影響を厚生労働省は例示していました。
それに比べると、今回厚生労働者が示した62万円・71万円というのは、かなりの引上げとなります。
(基準額が高くなればなるほど、年金の支給停止対象者数や年金支給停止額は少なくなります)
11月25日の年金部会では、在職老齢年金制度を今の制度のまま維持すべきという委員も一部いました。
しかしながら、全体としてみれば、多くの委員が将来的な廃止も含めた見直しという方向性については賛成していました。
まずは基準額引上げに留めるとしても、将来的には廃止を検討すべきとの意見もありました。
なお、高額報酬の社長様方の年金支給停止額が改正により具体的にどう変わるかには、
在職老齢年金制度の基準額がどうなるかだけではなく、次の論点である、厚生年金保険の標準報酬月額の上限がどのように変わるかも影響する可能性があります。
厚生年金保険の標準報酬月額の上限(現在65万円)を引き上げることも令和7年改正に向けての論点の一つです。
この点について2024年7月3日の時点では、上限を75万円、83万円、98万円と引き上げた場合の影響を厚生労働省は例示していましたが、11月25日の年金部会では、上限を75万円、79万円、83万円、98万円の4通りとする案を提示しました。
厚生年金保険の標準報酬月額が引き上げられると、給与の高い厚生年金保険被保険者(若い人も年金受給者も)が納める厚生年金保険料や会社が負担する厚生年金保険料が増え、
将来の老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額も増えることとなります。
また、(基準額が引き上げられたとしても在職老齢年金制度のしくみ自体は現在の制度が残るのであれば)、厚生年金保険の標準報酬月額の上限が上がれば、(在職老齢年金制度による年金支給停止額計算式中の総報酬月額相当額が上がることにより)、年金の在職支給停止額が引き続き大きくなる人が出てきます。
厚生年金保険の標準報酬月額の引上げについては、一部事業主負担が増えることに懸念を示す委員もいましたが、おおむね賛成意見が相次ぎました。
・在職老齢年金制度の見直し(将来の年金の所得代替率を下げる影響がある見直し)
と
・厚生年金保険の標準報酬月額の上限引上げ(将来の年金の所得代替率を上げる影響がある見直し)
とは、是非セットで実施して欲しい、との意見を述べる委員もいました。
厚生年金保険の標準報酬月額の具体的な上げ幅をいくらにするか等に関して検討の上、年末の議論の取りまとめに盛り込まれると思われます。
(参考資料:「標準報酬月額の上限について」厚生労働省年金局)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001337885.pdf
(2025年1月22日追記)(2024年12月26日)
上記の、在職老齢年金制度の見直し案や厚生年金保険の標準報酬月額上限引上げ案等は、令和6年12月24日開催の第24回社会保障審議会年金部会を経て、同年12月25日公表の「社会保障審議会年金部会における議論の整理」に盛り込まれました。
https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/001364986.pdf
それに先立ち令和6年12月18日には、自由民主党政務調査会、社会保障制度調査会、年金委員会・医療委員会名で、「今般、政府は以下の諸点を踏まえて公的年金制度等の改革を進めるよう提言する。」とした「年金制度改革に向けた提言」がまとめられていました。
この提言の内容は、第24回年金部会において「参考資料2」として公表されています。(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001362104.pdf)
改正法案は令和7年通常国会に提出される見込みです。
少数与党の現状で、どのような改正に落ち着くのか見通せないところもありますので、令和7年通常国会における審議の成り行きが注目されます。
(参考1)令和2年年金改正法(「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」)は、令和2年5月29日に成立し、令和2年6月5日に公布されました。
(参考2)
・自民党の提言における在職老齢年金制度
「在職老齢年金制度については、高齢者の就業が拡大しており、働き方に中立的な仕組みとする観点から見直すべきである。一方で、見直しにともなって年金財政からの支出が増加し、将来世代の給付水準に影響が及ぶ可能性があることから、 将来的な制度の廃止を視野に入れつつ、まずは支給停止の基準額を引き上げるべきである。」(引用文中の下線はすべて奥野によるものです)
・年金部会の議論の整理における在職老齢年金制度(抜粋)
「○ 本部会の議論では、
・ 保険料を拠出した者に対し、それに見合う給付を行うという公的年金の原則との整合性
・ 高齢者の活躍を後押しし、できるだけ就業を抑制しない、働き方に中立的な仕組みとする観点
から、現行の在職老齢年金制度を見直すことで概ね意見は一致した。
○ 具体的な見直し案について、本部会では、賃金と老齢厚生年金の合計額による支給停止の基準額(現行は 50 万円)を引き上げる案と、廃止案について議論したが、特定の案に意見はまとまらなかった。具体的には、高齢者の就労促進や保険料を拠出した方にそれに見合う給付を行う年金制度の原則を踏まえて、支給停止の基準額の引上げから始めて、将来的な廃止まで段階的に見直すべきという意見、将来世代の給付水準の低下に配慮を求める意見、制度を撤廃することで年金制度の原理原則との整合性を高めつつより納得性の高い年金制度にすることが重要という意見、撤廃に伴って税制上の対応等を求める意 見があった。
○ 本部会での意見を踏まえて、政府において具体的な制度の見直し案について検討を行う必要があるが、検討結果によっては、基準額の引上げにとどまることとなる。
仮に在職老齢年金制度が残る場合には、高齢者の就労インセンティブを阻害する影響や、あるいは就労が増加することによる経済全体へのプラスの影響等について引き続き実態の把握や分析が重要である。(以下省略)」
・自民党の提言における標準報酬月額上限の見直し
「標準報酬月額の上限は、負担能力に応じた負担を求める観点から引き上げるべきである。その際、被保険者にとって保険料負担が増加することのみに注目されることがないよう、将来の給付が増加することについてもしっかり周知していくべきである。」
・年金部会の議論の整理における標準報酬月額上限の見直し
「○ 上限該当者は、負担能力に対して相対的に軽い保険料負担となっている中、今後、賃上げが継続すると見込まれる状況において、負担能力に応じた負担を求める観点や将来の給付水準全体にプラスの効果をもたらす所得再分配機能の強化の観点から、現行の標準報酬上限額の改定のルールを見直して新たな等級を追加することについては概ね意見は一致した。なお、上限を引き上げることの負担感は、被保険者本人にも事業主にとっても相当大きいものであることに留意が必要との意見があった。
○ この新しい改定ルールについては、健康保険法の改定ルールを参考に、上限等級に該当する者が占める割合に着目して上限等級を追加することができるルールが考えられる。その際には、男女ともに上限等級に該当する者が最頻値とならないような観点を踏まえつつ、事業主負担への配慮から、引き上げられる上限は小幅に留めるとともに、必要があれば影響等を検証しつつ段階的に引き上げるべきとの意見もあり、本部会での意見を踏まえて、政府において具体的な制度の見直し案について検討が必要である。(以下省略)」
(2025年1月22日)
令和7年改正でどのように改正されるかはまだわかりませんが、もし、在職老齢年金制度の基準額が62万円に引き上げられ、厚生年金保険の標準報酬月額の上限が75万円に引き上げられ、その他の事項について改正がなかったとしたら、多くの社長が働きながら受給できる年金はどのように変わるでしょうか。次の典型的な事例で確認してみましょう。
(例)報酬月額80万円・賞与なし(報酬年額960万円)で厚生年金保険に加入して働いている65歳社長。老齢厚生年金(報酬比例部分)は年額144万円(基金代行額なし)
・(改正前)年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額12万円+総報酬月額相当額65万円-基準額50万円)÷2=13.5
年金支給停止額(月額換算額)>基本月額のため、老齢厚生年金(報酬比例部分)は全額支給停止。
・(改正後)年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額12万円+総報酬月額相当額75万円-基準額62万円)÷2=12.5
年金支給停止額(月額換算額)>基本月額のため、老齢厚生年金(報酬比例部分)は全額支給停止。
もし前記のような改正内容に決まったとしたら、この社長は、改正前も改正後も老齢厚生年金(報酬比例部分)は全額支給停止です。
それなのに、毎月会社が納める厚生年金保険料は、この社長一人分だけで次の通り月額18,300円増えることとなります。
(改正前)厚生年金保険料月額(会社負担分+本人負担分)118,950円
(改正後)厚生年金保険料月額(会社負担分+本人負担分)137,250円
なお、令和7年改正において、基準額の引上げにとどまり在職老齢年金制度が残ることとなった場合には、令和7年改正法施行日以降も、次の重要な留意事項も現状のまま残ることとなってしまいますので、ご注意ください。
・老齢厚生年金を繰り下げたとしても、在職老齢年金制度により老齢厚生年金(報酬比例部分)が支給停止となる部分については、繰下げ増額されないこと
【よくある質問】
「月収62万円以下なら年金を全額もらえるようになるのでしょうか?」
そのような新聞報道を見たのですが、本当でしょうか。
【回答】
令和7年1月18日(土)の某新聞朝刊一面に次の見出しで、令和7年年金法改正について大きく報道されていました。
「月収62万円まで満額
働くシニアの厚生年金
政府改革案」
この「月収62万円」という表現には注意が必要です。
この新聞では在職老齢年金の記事見出しでなぜか、上記記事見出しのような使い方で「月収」の語が用いられていることがよくあります。
在職老齢年金制度の見直しに関する記事見出しで、「月収」という語が「支給停止の基準額」(厚生年金保険法第46条第1項の「支給停止調整額」)の意で、すなわち、「総報酬月額相当額+基本月額」の意で用いられているのです。
しかし、
・年金をもらえる年齢に達していない厚生年金加入者
や
・65歳前の特別支給の老齢厚生年金をもらえる年齢に達しているものの、在職老齢年金制度により年金の全額が支給停止されていて、実際には年金を受けていない人
は、「月収」といわれると、給与月額(または給与年額÷12)をイメージするはずです。
ですから、「月収62万円(給与月額62万円)ももらっているような高齢者に年金を受給しやすくするとは何事か」というような、誤解に基づく批判が世の中に溢れます。
(令和2年改正の前にもこの新聞では、同様の使い方で「月収」の語が見出しに用いられていました。
令和2年改正前には、高所得者優遇との反対意見が溢れ、野党某議員の強硬な反対もあり、結局、65歳以降の基準額の引上げは実現できずに65歳前の基準額引上げのみに留まりました。)
■記事見出しのみを見た人の在職老齢年金制度改正への誤解
また、在職老齢年金受給者の中には、記事見出しのみを見て、「月収62万円(給与月額62万円)にすれば年金を全額もらえる」と誤解して、年金一部支給となってしまう人が多く出てきてしまいます。
(典型的な誤解例)
支給停止の基準額が62万円となった場合、
・老齢厚生年金(報酬比例部分)が年額120万円(基金代行額なし)
・報酬月額62万円でその月以前の1年間に賞与なし
の人が「月収62万円(給与月額62万円)にすれば年金を全額もらえる」と誤解して給与月額62万円・賞与なしとすると、次の通り、老齢厚生年金(報酬比例部分)は半分支給停止となります。
・年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額10万円(120万円÷12)+総報酬月額相当額62万円-支給停止の基準額62万円)×1/2=5万円
・年金支給額(月額換算額)=基本月額10万円-年金支給停止額(月額換算額)5万円=5万円
■厚生年金保険の標準報酬月額上限引上げについての報道
1月18日の同記事では、厚生年金保険の標準報酬月額の引上げについても、「ポイント」の中で、賞与を除く年収798万円以上の「高所得者」の保険料増といった表現が使われていました。
本改正案は、厚生年金保険の標準報酬月額の上限該当者がかなり多くなったため上限等級を引上げ、また、引上げが必要となった場合の改定ルールも健康保険のようなルールに改正したらどうか、というものです。
上限引上げにより、上限該当者もそれ以外の人も、将来の年金額が増えます。
ところが、この新聞記事(WEB版)を見た若い世代の一般の人からSNS上等では、
「なぜ厚生労働省が勝手に高所得者の範囲をこんなに低く設定するのか」
といった批判が多くみられます。
「年収798万円でも、物価が上がり税金・社会保険料負担が重いので、(特に子供がいる場合は)生活が苦しい」
「(在職老齢年金制度の基準額引上げにより)年金受給者の年金を増やし、(厚生年金保険の標準報酬月額の引上げにより)受給前世代の手取りを減らすとは何事か」
といった批判も多いです。
「年収798万円以上の人=高所得者」との独自の意味づけをしているのは、この記事を書いた記者さんです。
年収798万円以上の人すべてが「高所得者」といえるかどうかは、本改正とは直接は関係がありません。
また、以下のような基本的な知識を有しない状態で、反射的に批判している人がSNS等では多い印象です。
・公的年金は社会保険制度であること(個人の投資・運用のように、払った金額ともらえる老齢年金額との比較のみに基づいて損得を論ずることにあまり意味はないこと)。
・公的年金給付には、老齢年金だけでなく、若年世代も受ける可能性のある障害年金・遺族年金もあること
・老齢年金受給者も70歳未満で厚生年金保険に加入して働いているのであれば、厚生年金保険料を納めていること
・現行法(厚生年金保険法第20条第2項)のままであっても、要件を満たせば標準報酬月額上限の引上げ(標準報酬月額の等級区分の改定)ができる定めがあること
など
■記事見出しのみでなく、記事本文や一次資料を確認することが重要
このように、新聞(やWEB版記事)の見出し等の表現は、公的年金制度や改正案に対する一般の人の誤解を招き、必要のない不安・根拠のない批判を誘発してしまいかねないものも結構ありますので、見出し等のみを流し読みするのは危険です。
必ず記事本文にも目を通し、できる限り、公開されている一次資料(社会保障審議会年金部会議事録等)を確認することが重要です。
今回お伝えした二つの改正案だけでなく、
・健康保険・厚生年金保険の適用拡大
・基礎年金のマクロ経済スライドによる給付調整の早期終了(マクロ経済スライドの調整期間の一致)、厚生年金積立金の配分変更のイメージ
や
・基礎年金拠出期間の45年への延長・給付増額
などについても、新聞記事等における見出しやポイント要約部分には、一次資料記載の重要な事項を正確に伝えることなく、独自の意味づけ・記載を行っているものが散見されます。
もちろん、見出し等には文字数の制限があるため正しい情報をすべて伝えるのが難しい、ということもあるでしょう。
見出し等では誤解が生じかねないような記載となっていても、本文では正しい記載がされているケースもあります。
しかし、相談をいただく中小企行社長様等が新聞見出し等のみを見て誤解されていることも、よくありますので、年金改正情報をご覧になる際には、十分ご注意ください。
(2025年1月24日)
令和7年改正における在職老齢年金制度見直しの施行日は、令和7年通常国会で成立が目指されている令和7年改正法において定められます。
もし改正法における見直しの施行日が、一部新聞報道の通り令和8年(2026年)4月1日となったとしたら、改正後の支給停止の基準額(一部報道通りとなれば62万円)が適用されるのは令和8年度分の年金からです。
改正前である令和7年度(2025年度)の支給停止の基準額は、平成16年改正以降令和6年度までの毎年度の支給停止の基準額と同じように、現行法(厚生年金保険法第46条第3項)の定めに基づき51万円に決まりました(令和6年平均の消費者物価指数を令和7年1月24日に総務省が公表したため、同日、令和7年度の支給停止の基準額や令和7年度年金額改定について、厚生労働省が公表しました)
●「令和7年度(2025年度)の年金額改定(令和6年度から1.9%の引上げ)と在職老齢年金制度の基準額改定(50万円から51万円に引上げ)」
(参考)「令和7年度の年金額改定についてお知らせします ~年金額は前年度から 1.9%の引上げです~」(厚生労働省ホームページ)
https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/001383981.pdf
(2025年2月10日)
年金と給与の調整(在職老齢年金制度)の基準額が、令和7年度は令和6年度より1万円高くなります。
・令和6年度基準額:50万円
・令和7年度基準額:51万円
また、令和7年度年金額は令和6年度年金額に比べて1.9%引上げとなります。
これにより、調整の対象となる年金(65歳までは特別支給の老齢厚生年金、65歳からは老齢厚生年金(報酬比例部分))の全額が支給停止となっている方であっても、令和7年4月分、つまり、令和7年6月支給分からは、それらの年金が全額支給停止とはならない方が出てきます。
(典型例)
・調整の対象となる年金が年額168万円(令和6年度額)、基金代行額なし
・給与月額635,000円、賞与なし
・令和7年度の年金額は年額171万1,920円とします
このケースでは、令和6年度現在、調整の対象となる年金は全額支給停止です(年金支給停止額(月額換算額)>「基本月額」(調整の対象となる年金の年額÷12)となっているため)。
・令和6年度分の年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額14万円(168万円÷12)+総報酬月額相当額65万円(注1)-令和6年度基準額50万円)÷2=145,000円
しかし、令和7年4月分からの年金支給停止額(月額換算額)は次の通りとなります。
・令和7年度分の年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額142,660円(171万1,920円÷12)+総報酬月額相当額65万円(注1・注2)-令和7年度基準額51万円)÷2=141,330円
(注1)給与月額635,000円以上の人の厚生年金保険の標準報酬月額は65万円(上限)です。その月以前の1年間に賞与受給がないため、総報酬月額相当額=標準報酬月額となります。
(注2)令和7年年金法改正に向けて、在職老齢年金制度の基準額引上げや、厚生年金保険の標準報酬月額の上限引上げを含む改正法案を通常国会に提出することが予定されています。
いまのところ、これらの改正に関する施行日は、それぞれ令和8年4月1日、令和9年9月1日(から段階的に実施)が目指されているようです。
したがって、いずれの論点がどのように改正されようとも、令和7年度分の年金受給とは関係がありません。
加給年金額の支給が始まるケースもある
上記の事例では、令和7年度は、調整の対象となる年金の月額換算額が142,660円であるところ、年金支給停止額(月額換算額)が141,330円となるため、差額の1月あたり1,330円だけが支給されることとなります。
調整の対象となる年金のごく一部のみが、令和7年4月分から支給停止解除され、残りの大部分は支給停止のままです。
これくらいしかもらえるようにならないのなら、年金額改定や基準額改定により生じるメリットはほとんどないと感じる人が多いでしょう。
ただ、この事例のような人が65歳以上であって、加給年金額の受給要件を満たしている場合は、働きながら加給年金額も全額受給できることとなります。
・老齢厚生年金(報酬比例部分)が全額支給停止の場合は、加給年金額の受給要件を満たしていても加給年金額は全額支給停止ですが、
・老齢厚生年金(報酬比例部分)がごく一部でも支給される場合は、加給年金額の受給要件を満たしていれば加給年金額は全額支給されるためです。
例えば、65歳到達月の前月までの厚生年金保険加入期間が20年以上の人が65歳になったときに、生計を維持している65歳未満の配偶者がいるときは、配偶者加給年金額の受給要件を満たすこととなります(配偶者自身が特別支給の老齢厚生年金や繰上げ支給の老齢厚生年金(いずれも厚生年金保険加入期間20年以上のもの)を受けられるときや、配偶者自身が障害年金を受けているときには配偶者加給年金額は加算されません)。
令和7年度の配偶者加給年金額は415,900円です(特別加算額も含んだ額。老齢厚生年金を受ける人が昭和18年4月2日以降生まれの場合)。
(比較)令和6年度額は40万8,100円です。
したがって、上記の人が配偶者加給年金額の受給要件を満たすのであれば、月額換算で1,300円強だけ支給停止解除されるのではなく、月額換算で36,000円弱支給停止解除される、ということになります。
このように、65歳以上で老齢厚生年金(報酬比例部分)がある程度高額で、加給年金額の要件を満たしている社長・役員様等については、老齢厚生年金(報酬比例部分)の一部でも支給されることとならないか、ご注意ください。
また、次の点にも留意が必要です。
・65歳以上70歳未満で厚生年金保険に加入して働いている人については、令和7年8月までの厚生年金保険加入記録をすべて年金額計算の基礎として老齢厚生年金額を計算し直してくれる「在職定時改定」が行われるため、令和7年10月分(12月支給分)から老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額が増え、「基本月額」が増えること
・65歳到達月の前月までの厚生年金保険加入期間が240月未満であった人が、在職定時改定(や70歳時改定)によって240月以上となり、その時点で加給年金額加算の要件を満たすこととなる人もいること
(2025年2月19日)
令和7年年金法改正で、厚生年金保険の標準報酬月額上限の引上げ(現行の65万円から75万円への引上げ)が目指されていましたが、2月8日以降新聞等で報道されていました通り、75万円に向けての段階的な引上げが検討されているとのことです。
この点について、もし段階的な引上げが実現したとしたら、社長・役員等の年金にどのような影響が生じるかを以下で確認してみましょう。
令和6年度現在、厚生年金保険法の標準報酬月額の上限は65万円です(報酬月額635,000円以上の人が該当)。
令和7年改正ではこの上限を75万円、79万円、83万円、または98万円に引き上げるという案を、厚生労働省は昨年社会保障審議会年金部会に提示していました。
その後、SNS等インターネット上では厚生労働省案への批判が多く見られました。
この点について今般厚生労働省は、次のように令和9年9月から2年かけて3段階で上限を引き上げる方向性を示しているとのことです。
・令和9年9月分から68万円→令和10年9月分から71万円→令和11年9月分から75万円
(注)健康保険の標準報酬等級は、現在、65万円(35等級)の上に次のような等級区分
が設けられています。
36等級:標準報酬月額68万円(報酬月額665,000円以上695,000円未満)
37等級:標準報酬月額71万円(報酬月額695,000円以上730,000円未満)
38等級:標準報酬月額75万円(報酬月額730,000円以上770,000円未満)
……
50等級:標準報酬月額139万円(報酬月額1,355,000円以上)
厚生年金保険の標準報酬月額上限が段階的に引き上げられると、例えば、報酬月額75万円の被保険者なら、次の通り、厚生年金保険料(会社負担分および被保険者負担分)月額が段階的に増えることとなります(厚生年金保険料を負担するのは70歳未満の間です)。
・令和9年8月分まで
標準報酬月額65万円:厚生年金保険料月額118,950円
・令和9年9月分から
標準報酬月額68万円:厚生年金保険料月額124,440円
・令和10年9月分から
標準報酬月額71万円:厚生年金保険料月額129,930円
・令和11年9月分から
標準報酬月額75万円:厚生年金保険料月額137,250円
(注)厚生年金保険料率は、1000分の183です。平成16年の年金法改正で、平成29年9月分以降はこの保険料率で固定することが法律(厚生年金保険法第81条第4項)で定められています。
また、子ども・子育て拠出金(全額会社負担・令和6年度現在の拠出金率は1000分の3.6)も増えます。
新聞報道等では、厚生年金保険の標準報酬月額引上げにより、標準報酬月額上限に該当する人の厚生年金保険料が上がることや、将来の年金給付水準(所得代替率)へのプラスの影響が生じることが解説されています。
しかし、その他にも、標準報酬月額上限引上げにより、給与と年金の調整(在職老齢年金制度)による年金支給停止額にも影響が生じる社長等が多くなります。
年金支給停止額の計算には、厚生年金保険の標準報酬月額が影響するところ、社長の多くは厚生年金保険の標準報酬月額が上限額となっているためです。
(典型的な例)報酬月額75万円・賞与なし(年間給与900万円)で厚生年金保険に加入して働いている65歳以上社長。老齢厚生年金(報酬比例部分)年額144万円・基金代行額なし
このような社長の年金支給停止額は、標準報酬月額上限が段階的に引き上げられるとどうなるかを概観してみましょう。
(注)令和7年改正では、在職老齢年金制度の基準額(令和6年度分は50万円、令和7年度分は
51万円)を令和8年度分から62万円に引き上げる方向性も示されています。
一方、厚生年金保険の標準報酬月額上限の引上げは令和9年9月分からの施行が想定され
ています。
これら以外の改正はないものとして試算します。
1.令和6年度分:標準報酬月額上限65万円、在職老齢年金制度の基準額「50万円」
・年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額12万円+総報酬月額相当額65万円-基準額50万円)÷2=13.5万円
(注)「基本月額」=調整の対象となる年金の月額換算額
「総報酬月額相当額」=調整の対象となる給与・賞与の月額換算額
=標準報酬月額+「その月以前の1年間の標準賞与額の総額」÷12
・年金支給停止額(月額換算額)>基本月額のため、老齢厚生年金(報酬比例部分)は全額支給停止
2.令和7年度分:標準報酬月額上限65万円、基準額「51万円」
・年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額12万円+総報酬月額相当額65万円-基準額51万円)÷2=13万円
・年金支給停止額(月額換算額)>基本月額のため、老齢厚生年金(報酬比例部分)は全額支給停止
3.令和8年4月分から 標準報酬月額上限65万円、基準額「62万円」に引上げ
・年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額12万円+総報酬月額相当額65万円-基準額62万円)÷2=7.5万円
・年金支給額(月額換算額)=基本月額12万円-年金支給停止額(月額換算額)7.5万円=4.5万円(一部のみ支給)
4.令和9年9月分から:標準報酬月額上限「68万円」に引上げ
・年金支給停止額(月額換算額)=(基本月額12万円+総報酬月額相当額68万円-基準額62万円)÷2=9万円
・年金支給額(月額換算額)=基本月額12万円-年金支給停止額(月額換算額)9万円=3万円(一部のみ支給)
5.令和10年9月分から:標準報酬月額上限「71万円」に引上げ
・年金支給停止額(月額)換算額=(基本月額12万円+総報酬月額相当額71万円-基準額62万円)÷2=10.5万円
・年金支給額(月額換算額)=基本月額12万円-年金支給停止額(月額換算額)10.5万円=1.5万円(一部のみ支給)
6.令和11年9月分から:標準報酬月額上限「75万円」に引上げ
・年金支給停止額(月額)換算額 =(基本月額12万円+総報酬月額相当額75万円-基準額62万円)÷2=12.5万円
・年金支給停止額(月額換算額)>基本月額のため、老齢厚生年金(報酬比例部分)は全額支給停止
上記の事例では、老齢厚生年金(報酬比例部分)の全額が支給停止となっている社長が今後も給与設定を変更しない場合であっても、令和8年度分以降、老齢厚生年金(報酬比例部分)の一部のみが支給されたり、その後、支給停止額が変動したりすることなります。
年金支給額・年金支給停止額に変動があった都度送られてくる支給額変更通知書や毎年6月に送られてくる年金額改定通知書を見た際に、一体何が起こっているのか、どうして頻繁に年金支給額が変わるのかよくわからない社長様も増えるのではないかと思われます。
各社の役員給与設定決定時期において、今期の役員給与設定変更を検討される際には、思わぬ勘違いが生じないように、正しい情報を都度確認した上で検討いただくことの重要性が今以上に増すといえるでしょう。
(注)本稿では、イメージしやすいように「基本月額」(調整の対象となる年金の月額換 算額)を12万円という一定額で試算しました。
しかし、実際には、基本月額は、毎年4月分から物価・賃金の変動に応じて改定されます。
また、65歳以上70歳未満の間の毎年10月分からの在職定時改定や70歳到達月の翌月分からの70歳時改定によっても基本月額は増えます。
在職老齢年金制度の基準額改定ルールが現行法のしくみから改正されない場合は、令和9年度以降の基準額も毎年度改定される可能性があります。
(注2)一定の要件を満たせば老齢厚生年金に加算される配偶者加給年金額については、
令和7年改正で加算額を見直し(10%減額)する案が検討されています。
・現行の年額408,100円→見直し後の年額367,200円(いずれも令和6年度価格での特別加算額を含んだ額)
既に受給している人の加算額は維持した上で、新たに受給する人への加算額の見直しに留めることが想定されています。
配偶者加給年金額の見直しに関する施行日をいつにするかについては、引き続き検討される見込みです。
(注3)本稿で解説した現時点での見直し案は、今後変更となる可能性があります。
(ポイント)
●厚生年金保険の標準報酬月額の上限の段階的な引上げが検討されている(令和9年9月分から、令和10年9月分から、令和11年9月分からを想定)
●標準報酬月額上限の引上げは、高額報酬を受けている社長等の年金支給停止額にも影響を及ぼす
●在職老齢年金制度の基準額の62万円への引上げも検討されている(令和8年4月分からを想定)
(補足)
昨年の社会保障審議会で厚生労働省は次のように示していました。
・在職老齢年金制度の基準額を62万円に引き上げると将来の年金給付水準(「所得代替率」)は、0.2%下がる
・厚生年金保険の標準報酬月額を75万円に引き上げると将来の年金給付水準(「所得代替率」)は、0.2%上がる
年金支給額が増えることとなるため年金財政にとってマイナスの影響がある在職老齢年金基準額の引上げと、年金保険料が増えることとなるため年金財政にとってプラスの影響がある厚生年金保険の標準報酬月額引上げは、両方セットで導入することが望ましい、との趣旨の意見が昨年の社会保障審議会年金部会で複数の委員から出されていました。
世間の批判や、批判を避けたい与党の思惑もあってか今回提示された、標準報酬月額上限の引上げを段階的に行うという修正案がもし実現したとしたら、所得代替率へのプラスの影響が0.2%となるまでの期間が延びるように思われます。
その一方で、所得代替率へのマイナスの影響が0.2%と見込まれる基準額62万円の引上げの方は、62万円に向けた段階的な引上げ案は提示されていないようで、この点、昨年の年金部会における議論と整合性がないような感じもしますが、当面の不整合が年金財政に与える影響は軽微だという判断なのかもしれません。
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