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(2018年8月8日)
若年経営者の方から、このような質問を受けることがあります。
「ねんきん定期便が届いたのですが、もらえる年金がこんなに少ないのなら、厚生年金に加入するのは無駄ですよね。」と聞かれることもあります。
50歳未満の人に届く「ねんきん定期便」記載の年金額については、その意味を誤解している人もいますので、注意が必要です。
以下、解説いたします。
(解説)
厚生年金保険や国民年金に加入している人のもとには、毎年1回誕生月の上旬に日本年金機構から「ねんきん定期便」が届きます。(1日生まれの人には誕生月の前月上旬に届きます。)
節目年齢(35歳・45歳・59)を迎える人にはA4版の水色の封筒で定期便が届くのですが、それ以外の年齢の人には、ハガキ形式の定期便が届きます。
年金をもらえる年齢になる前の厚生年金保険加入者に届く「ねんきん定期便」には、主に次の内容が記載されています。
・これまでの年金加入期間
・これまでの保険料納付額(累計額)
・標準報酬月額、標準賞与額
その他、「ねんきん定期便」には年金額も記載されています。
50歳未満の人に届く定期便と50歳以上の人に届く定期便とでは、記載されている年金額の意味が下記の通り全く異なりますので、注意が必要です。
1.50歳未満の人に届く定期便に記載されている年金額
これまでの加入実績に応じた年金額(65歳からの老齢基礎年金・老齢厚生年金)
2.50歳以上の人に届く定期便に記載されている年金額
現在の報酬額のまま60歳まで厚生年金保険に加入し続けたと仮定した場合の年金の受取見込額(65歳までの特別支給の老齢厚生年金、65歳からの老齢基礎年金・老齢厚生年金)
50歳未満の人に届く「ねんきん定期便」の特徴は次の3点です。
1.今後の厚生年金保険加入記録は加味されていない。
2.65歳までの特別支給の老齢厚生年金の年金額は記載されていない。
3.基金代行額がある人の場合、基金代行額も老齢厚生年金(報酬比例部分)の欄に記載されている。
順番に詳しく見ていきましょう。
1.今後の厚生年金保険加入記録が加味されていない。
50歳未満の人の場合、60歳(厚生年金保険加入者の大多数を占める会社従業員の一般的な定年年齢)までまだ10年以上あります。
今後もずっと現在の報酬額のまま60歳まで働き続ける人は少ないでしょう。
ですから、50歳以上60歳未満の人への定期便のように、現在の報酬額のまま60歳まで働いたと仮定してもらえる年金額を通知してもあまり意味がありません。
そこで、50歳未満の人に届く「ねんきん定期便」ではこれまでの厚生年金保険・国民年金加入記録だけを基に計算した年金額が記載されています。
そのように算出した年金額と、これまでの保険料納付額(累計額)とが併記されています。
なお、保険料納付額(累計額)は本人負担分のみが記載されています。
実際に年金をもらえる年齢を迎えた際には、それまでの厚生年金保険加入期間および各月に受けた報酬額・賞与額も加味して年金額が計算されます。
このことを知らない若年経営者が、ねんきん定期便に記載された年金額が少ないことに驚いて、こんなにもらえる年金が少ないのなら、厚生年金保険に加入しても無駄なのではないか、と誤解していることがあります。
50歳以下の人に届くねんきん定期便に記載された年金額は実際にもらえる年金の見込額ではないことを、ぜひご理解ください。
2.65歳までの特別支給の老齢厚生年金保険の年金額は記載されていない。
現在50歳未満の人は、65歳までの特別支給の老齢厚生年金がもらえない世代の人たちです。
ですから、65歳からの老齢基礎年金・老齢厚生年金のみについて年金額が記載されています。
なお、特別支給の老齢厚生年金がもらえるのは、公的年金に合計10年以上加入し、うち1年以上厚生年金保険に加入した人のうち、次の世代の人だけです。
・昭和36年4月1日以前生まれの男性
・昭和41年4月1日以前生まれの女性
3.基金代行額がある人の場合、基金代行額も老齢厚生年金(報酬比例部分)の欄に記載されている。
厚生年金基金にも加入した期間があり、国からもらえる老齢厚生年金(報酬比例部分)以外に基金代行額ももらえる人の場合、50歳未満の人に届く「ねんきん定期便」では「老齢厚生年金(報酬比例部分)+基金代行額」の合計額が、老齢厚生年金(報酬比例部分)の欄に掲載されています。
つまり、基金に加入した期間を基金に加入しなかった期間として記載されています。
(注)厚生年金基金とは、国が支給する報酬比例部分の年金の一部を代行支給し、さらに基金独自のプラスアルファ分を支給するところです。
50歳未満の人に届く「ねんきん定期便」の3つの特徴の中では、1が最も重要です。
年金をもらえる年齢になっても「ねんきん定期便」記載金額しか年金はもらえないと誤認しないようご注意ください。
また、公的年金には老齢基礎年金だけではなく、障害年金や遺族年金もあることも重要です。
なお、60歳以上で特別支給の老齢厚生年金受給開始年齢前の厚生年金保険加入者に届く「ねんきん定期便」では60歳以降の年金加入記録も加味した年金見込額が記載されています。
また、年金を受給中の厚生年金保険加入者にも毎年「ねんきん定期便」は届きますが、年き見込額はもう記載されていません。
(ポイント)
●50歳未満の人に届く「ねんきん定期便」記載の年金額は、これまでの加入実績に応じた年金額が記載されている。
●年金をもらえる年齢になったときにもらえる年金見込額が記載されているのではないことに注意。
「ねんきん定期便が届いたのですが、もらえる年金がこんなに少ないのなら、厚生年金に加入するのは無駄ですよね。」との相談は、50歳未満の経営者からだけでなく、50歳以上の経営者からも受けることがあります。
既にお伝えした通り、50歳未満の人に届く「ねんきん定期便」と、50歳以上60歳未満の人に届く「ねんきん定期便」とでは、記載されている年金額の意味が次の通り全く異なります。
1.50歳未満の人に届く定期便に記載されている年金額
これまでの加入実績に応じた年金額
2.50歳以上60歳未満の人に届く定期便に記載されている年金額
現在(正確には、定期便作成月の前々月時点)の報酬額のまま60歳まで厚生年金保険に加入し続けたと仮定した場合の年金の受取見込額
50歳未満の人に届く定期便には、今後の厚生年金加入記録が加味されていません。
ですから、年金はこんなに少ないのか、と驚く人が多いわけです。
しかし、「ねんきん定期便」を見て、年金の少なさに驚いて相談してくる人は、50歳未満の人ばかりではありません。
50歳以上60歳未満の人の中にも、長年厚生年金に入ってきたのに、こんなにもらえる年金が少ないのなら厚生年金に加入しても無駄なのではないか、と誤解している人がいます。
なぜ、そのような誤解をしてしまうのでしょうか。
50歳以上の人で、長年厚生年金に加入したのに「ねんきん定期便」に記載された年金額が少ない、と相談してくる人は、厚生年金基金にも長年加入してきた人です。
厚生年金基金とは、企業年金の一つで、国が支給する特別支給の老齢厚生年金や老齢厚生年金の一部を代行し、独自のプラスアルファー部分を上乗せして年金給付を行うところです。
例えば、2018年9月15日に59歳となるため、水色のA4版の封筒で「ねんきん定期便」が届いた男性(昭和34年9月16日生まれ)の場合。
この人の場合、生年月日・性別に応じて定められた特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の受給開始年齢は64歳です。
ですから、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を、64歳から65歳になるまでもらえます。
65歳になると、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)はもらえなくなるかわりに、老齢基礎年金および老齢厚生年金(報酬比例部分+経過的加算部分)をもらえるようになります。
50歳以上60歳未満の人に届く「ねんきん定期便」記載の年金受取見込額は、60歳以降の厚生年金加入記録を加味していません。
したがって、65歳までの特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額と、65歳からの老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額が同額となっています。
この人がもし、過去に厚生年金基金に加入したことがなかったとしたら、「ねんきん定期便」には、例えば次のように記載されています・
老齢年金の見込額 64歳~
特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)1,200,000円
1年間の受取見込額 1,200,000円
老齢年金の見込額 65歳~
老齢基礎年金 779,300円
老齢厚生年金(報酬比例部分)1,200,000円
(経過的加算部分) 700円
1年間の受取見込額 1,980,000円
この人がもし、長年厚生年金基金にも加入しており、特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)や老齢厚生年金(報酬比例部分)の年金額120万円のうち、100万円を厚生年金基金が国に代わって代行支給する予定の場合は、次のように記載された「ねんきん定期便」が届きます。
老齢年金の見込額 64歳~
特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)200,000円
1年間の受取見込額 200,000円
老齢年金の見込額 65歳~
老齢基礎年金 779,300円
老齢厚生年金(報酬比例部分) 200,000円
(経過的加算部分) 700円
1年間の受取見込額 980,000円
年金制度に詳しくない一般の方がこのような定期便をみて、長年厚生年金にも厚生年金基金にも加入してきたのに、もらえる年金がこんなに少ないとは、と驚いたとしても仕方ないですよね。
年金制度に詳しくない一般の人の場合、厚生年金基金が国の年金の一部を代行支給すること自体を知らないことが多いです。
厚生年金基金や企業年金連合会からももらえる年金がある場合、国の年金とは別に基金等への請求も必要なのですが、そのことを知らない人も多いです。
年金をもらえる年齢になった人が、厚生年金基金や企業年金連合会への請求をせずに年金を捨てている例は多いです。
(中小企業経営者だけでなく、従業員数百人規模の中堅企業経営者にもみられます。)
厚生労働省によると、平成28年度末の厚生年金基金への未請求数は1.5万人(受給権者数53.1万人の2.8%)、企業年金連合会への未請求数は118万人(受給権者数1,011万人の11.7%)
長年厚生年金に加入したのに年金額が少ないと感じたら、厚生年金基金にも長年加入しなかったかどうかを思い出してみてください。
その上で、「ねんきん定期便」に記載されている年金(国から支給される年金)以外に、厚生年金基金や企業年金連合会(https://www.pfa.or.jp/)から支給される年金がないか確かめてみてください。
基金が代行支給する「基金代行額」の有無・年金額については、50歳以上の人の場合、日本年金機構の「ねんきんネット」(https://www.nenkin.go.jp/n_net/)や年金事務所の年金相談を利用する際にもらえる「制度共通年金見込額照会回答票」でも確認できます。
(注)令和3年度から「基金代行額」も含めて「ねんきん定期便」に記載されることとなりました。
厚生年金に20年以上加入した人が65歳になったとき等に、その人によって生計を維持している65歳未満の配偶者または18歳到達年度末までの間の子がいる場合は、老齢厚生年金に「加給年金額」がプラスされます。
扶養手当のような性格を持つこの「加給年金額」も「ねんきん定期便」には記載されていません。
また、配偶者加給年金額は、配偶者自身が65歳になると、配偶者自身の老齢基礎年金にプラスして支給される「振替加算」に姿を変えます。
この振替加算も、配偶者の「ねんきん定期便」には記載されていません。
なお、国民年金の「付加保険料」を払ったことがある人の場合、「ねんきん定期便」記載の老齢基礎年金の見込額には、付加年金の額が含まれています。
(まとめ)
●50歳以上の人に届く「ねんきん定期便」には「基金代行額」は記載されていない。
●50歳以上の人の場合、「ねんきんネット」や年金事務所の年金相談でも、基金代行額の有無や年金額を確認できる
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