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(2020年7月15日)
在職老齢年金制度による年金支給停止を逃れるためによかれと思ってやっていることが、全く間違っていることもあります。
今回は、繰上げについての誤解が原因で、経営者が損をしてしまう事例をお伝えします。
老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰上げした人からの質問例
特別支給の老齢厚生年金は61歳(62歳、63歳、または64歳)からしかもらえないと言われたため、60歳から年金を繰上げ受給しています。
年金の一部は役員給与との調整で支給停止となっていますが、残りの一部を受けとっています。
65歳からは、次のいずれかから受け取り方を自由に選べるのでしょうか。
・老齢基礎年金・老齢厚生年金とも65歳から受ける
・老齢基礎年金のみ65歳から受け、老齢厚生年金は66歳以降に繰下げる
・老齢厚生年金のみ65歳から受け、老齢基礎年金は66歳以降に繰下げる
このようなケースでは、65歳までの特別支給の老齢厚生年金を60歳から繰上げ受給していると誤解する人がいます。
しかし、65歳までの特別支給老齢厚生年金を繰り上げているわけではありません。
特別支給の老齢厚生年金を61歳以降からもらえる世代の人、つまり、昭和28年4月2日から昭和36年4月1日までの間に生まれた男性、または、昭和33年4月2日から昭和41年4月1日までの間に生まれた女性が、生年月日・性別に応じて定められた年金支給開始年齢到達月の前月になるまでの間に繰上げて受給する場合は、65歳からの老齢基礎年金・老齢厚生年金をともに繰上げることとなります(この場合、特別支給の老齢厚生年金はなくなります)。
ですから、65歳になっても、一生繰上げ減額された老齢基礎年金および老齢厚生年金を受けることとなります。
老齢基礎年金については、60歳から繰上げ請求した場合は30%(60か月×0.5%)減額された年金をもらうこととなります。
老齢厚生年金については、例えば、64歳から特別支給の老齢厚生年金をもらえる人が60歳から繰上げた場合は、24%(48か月×0.5%)減額された年金をもらうこととなります。
64歳からの特別支給の老齢厚生年金を60歳からもらうのではなく、65歳からの老齢厚生年金を60歳からもらうのですが、減額率の計算にあたっては、あたかも特別支給の老齢厚生年金を繰上げたかのような計算がされることとなっています。
65歳からの老齢基礎年金・老齢厚生年金について繰上げ受給すると、65歳から減額されない年金を受けることも、66歳以降に繰下げて増額された年金をもらうことももうできません。
この世代の人が年金支給開始年齢到達月前に繰上げ受給することを、働きながら年金の一部が支給停止とならずにもらえるお得な方法として紹介されていることもありますので、注意が必要です。
この場合は、繰上げて減額された老齢厚生年金は報酬・賞与との調整により支給停止となります(現在、65歳までは基準額28万円・65歳からは基準額47万円)が、繰上げて減額された老齢基礎年金は調整の対象外です。
働きながら年金の一部をもらえるため、年金が全額支給停止となっている他の60歳代前半の社長と比べると一見得をしているように見えるかもしれません。
しかし、繰上げ減額の影響は一生続きますので、早期に亡くなる人を除き、結果として損をする人が多くなります。
老齢基礎年金のみを繰上げた人は老齢厚生年金のみを繰下げできる
(比較1 )
特別支給の老齢厚生年金を61歳以降からもらえる世代の人が、支給開始年齢になった月以降になってから繰上受給した場合。
この場合は、65歳からの老齢厚生年金を繰上げることはできません。65歳からの老齢基礎年金のみを繰上げ受給することとなります。
65歳まで特別支給の老齢厚生年金も併給できますが、特別支給の老齢厚生年金は、報酬・賞与との調整により支給停止となります(現在、基準額28万円)。
したがって、65歳になっても老齢基礎年金は一生繰上げ減額された年金(繰上げ月数×0.5%、減額された年金)を受給することとなります。
しかし、老齢厚生年金は繰上げ受給していないわけですから、65歳から受けることも、66歳以降に繰下げることもできます。
(比較2)
特別支給の老齢厚生年金として報酬比例部分のみの年金を60歳からもらえる人、つまり、昭和24年4月2日から昭和28年4月1日までに生まれた男性、または、昭和29年4月2日から昭和33年4月1日生まれの女性が、65歳前から繰上げ受給した場合。
この場合も、65歳からの老齢基礎年金のみを繰上げ受給する形となります。
やはり、65歳まで特別支給の老齢厚生年金も併給できますが、特別支給の老齢厚生年金は、報酬・賞与との調整により支給停止となります(現在、基準額28万円)。
したがって、65歳になっても老齢基礎年金は一生繰上げ減額された年金(60歳から繰上げ請求した場合は30%減額された年金)を受給することとなります。
しかし、老齢厚生年金は繰上げ受給していないわけですから、65歳から受けることも、66歳以降に繰下げることもできます。
以上のように、年金の繰上げは、ご本人の生年月日や繰上げ請求するタイミングにより、65歳からの老齢基礎年金のみを繰上げるのか、65歳からの老齢基礎年金と老齢厚生年金を両方繰上げるのかが変わります。
なお 繰上げは、現在は繰上げ月数(最高60か月)×0.5%、年金額が減額される制度ですが、令和4年4月1日以降は、繰上げ月数(最高60か月)×0.4%、年金額が減額される制度となります(施行日以降に60歳になる人が対象です)。
比較1の人や比較2の人が年金額をできるだけ増やすには、報酬比例部分の年金が支給停止とならないような給与設定に変更した上で、70歳まで厚生年金保険に加入して働き、65歳からの老齢厚生年金をできるだけ長く繰下げることが考えられます(比較2の人の中には、既に70歳以上となっている男性もおられますが・・・)。
繰下げは、現在は最高70歳までしか繰下げできない制度です。繰下げ月数(最高60か月)×0.7%、年金額が増額されますので、年金額は最高で65歳時の1.42倍に増額されます。
しかし、令和4年4月1日以降は最高75歳まで繰下げでき、年金額が最高で65歳時の1.84倍に増額される制度となります(施行日時点で70歳未満の人が対象です)。
(注)以上、障害年金や遺族年金を受けられる状態にない場合の解説です。
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