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65歳以降も働き続けて厚生年金保険料を払い続けることにより、老齢基礎年金を増額できますか?

国民年金保険料未納・滞納期間があるがその後厚生年金保険に加入し続けたケースでよくある質問

(2022年4月29日)

(典型事例)

64歳の代表取締役Aさん。報酬月額100万円(年収1,200万円)
・令和44月分以降も、特別支給の老齢厚生年金は全額支給停止
・令和4810日に65歳に到達し、令和49月分から年金が老齢基礎年金・老齢厚生年金に変わるが、老齢厚生年金(報酬比例部分)は全額支給停止

・後継者はおらず、現在の報酬設定のまま70歳以降も代表取締役として働き続ける予定

 

(よくある質問内容)

「大学・大学院在学期間や海外在住期間で国民年金に任意加入していなかった期間、個人事業として起業して国民年金保険料が未納であった期間、法人を設立して法人から報酬を受けていながら厚生年金保険に加入しておらず国民年金保険料が未納であった期間があるため、65歳の前月までに合計425か月しか厚生年金に加入できません(その他に、国民年金の第1号被保険者期間や任意加入被保険者として国民年金保険料を納めた期間、国民年金の3号被保険者期間、共済加入期間はありません)。

現在の報酬で働いている限り老齢厚生年金は何歳になっても受給できず、繰下げても増額されないと言われました。そこで、

1.合計480月以上加入となるように、今後も厚生年金保険料を払い続けて老齢基礎年金を満額もらえるようにして、

2.老齢基礎年金を70歳まで繰り下げることで、満額の老齢基礎年金×1.42倍の年金を受けようと考えています。

理解に間違いはないでしょうか。

 

 

厚生年金保険加入期間で65歳からの老齢基礎年金の額に反映するのは、20歳以上60歳未満の期間(「厚船2号」)


■満額の老齢基礎年金はもらえない

Aさんの場合、65歳到達月の翌月分(令和49月分)から支給される老齢基礎年金額に反映する厚生年金保険加入期間(20歳以上60歳未満の厚生年金保険加入期間)(注1)は、365月(425月-60月)だけです。

(注1)年金事務所でもらえる「試算結果」では「厚船2号」と記載される期間です。

20歳以上60歳未満の480月のうち、365月公的年金加入期間がありますので、この人の老齢基礎年金額は、次の通りとなります。

 ・老齢基礎年金の満額(令和4年度額は777,800円)×365/480
=591,452円(1円未満四捨五入)

このまま65歳到達月の前月まで厚生年金保険に加入し続けると、厚生年金保険加入期間(年齢を問わない)(注2)は425月となります。

70歳到達月の前月まで厚生年金保険に加入し続けると、厚生年金保険加入期間(年齢を問わない)(注2)は485月となります。

(注2)年金事務所でもらえる「試算結果」では「厚年期間」と記載される期間です。

しかし、60歳以降70歳未満(や20歳未満)の厚生年金保険加入期間(「厚年期間」のうち「厚船2号」に含まれない期間)の月数は、老齢基礎年金額には反映しません。 

したがって、Aさんは今後厚生年金保険料を払い続けても、老齢基礎年金を満額受給することはできません。

 

老齢基礎年金には反映しないが、老齢厚生年金(経過的加算部分)に反映する

60歳以降70歳未満(や20歳未満)の厚生年金保険加入期間(「厚年期間」のうち「厚船2号」に含まれない期間)の月数は、老齢基礎年金額には反映しませんが、厚生年金保険から支給される「経過的加算部分」(注3)の額に反映します。

(注3)年金事務所でもらえる「試算結果」では「差額加算」と表示されています。

 

老齢厚生年金(経過的加算部分)は、次の計算式で計算されます(令和4年度の場合)。

・老齢厚生年金(経過的加算部分)=1,621円×厚生年金保険加入期間の月数(年齢を問わない。上限480月)-老齢基礎年金の満額777,800円×(昭和3641日以降で)20歳以上60歳未満の期間の月数/480

 

このまま65歳到達月の前月まで厚生年金保険に加入し続けると、65歳到達月の翌月分からの老齢厚生年金(経過的加算部分)は、97,473円となります。

・老齢厚生年金(経過的加算部分)=1,621円×厚生年金保険加入期間の月数(年齢を問わない)425月-老齢基礎年金の満額×(昭和3641日以降で)20歳以上60歳未満の期間365/480月→97,473

 70歳到達月の前月まで厚生年金保険に加入し続けると、70歳到達月の翌月分からの老齢厚生年金(経過的加算部分)は、186,628円となります。

・老齢厚生年金(経過的加算部分)=1,621円×厚生年金保険加入期間の月数(年齢を問わない)480月(上限)-老齢基礎年金の満額×(昭和3641日以降で)20歳以上60歳未満の期間365/480月→186,628 

(注)いずれも、令和4年度額による見込試算です。老齢基礎年金の満額や1,621円という数字は年度により改定されることがあります。  

 

老齢基礎年金の繰下げを検討している人は、老齢基礎年金と老齢厚生年金(経過的加算部分)を混同して誤解しないよう、特に注意が必要

繰下げは、65歳到達月の前月までの年金加入記録に基づいて計算される65歳時の老齢基礎年金や老齢厚生年金の額が増額されるという制度です。

したがって、老齢基礎年金の繰下げによって増額されるのは、65歳時の老齢基礎年金です。

インターネット上の年金情報等において、「60歳以降・65歳以降も厚生年金に加入することによって基礎年金相当分が増えるため、厚生年金に加入して働き続ける方がおトク」「老齢厚生年金を繰下げ待機している間は加給年金額が付かないため、老齢厚生年金の繰下げよりも老齢基礎年金の繰下げを優先した方がよい」と説明されていることがよくあります。


しかし、「60歳以降・65歳以降の厚生年金保険加入期間は老齢基礎年金の額に反映する」・「60歳以降・65歳以降の厚生年金保険加入期間分も老齢基礎年金の繰下げ増額対象となる」と誤解したまま老齢基礎年金を繰下げ待機すると、繰下げ増額効果額の見込み違いが生じてしまいます。


例えば、Aさんが厚生年金保険加入期間480月以上となるまで加入し、老齢基礎年金を70歳まで繰下げて、90歳になるまでの20年間受給すると仮定すると、Aさんが想定している繰下げ増額結果と実際の繰下げ増額結果とでは、20年間合計で約529万円の差が生じます。

・想定している繰下げ増額結果:満額の老齢基礎年金777,800円×1.42倍=1,104,476円 

20年間の合計額:22,089,520

・実際の繰下げ増額結果:65歳時の老齢基礎年金591,452円×1.42倍=839,862

20年間の合計額:16,797,240

 

(参考)老齢基礎年金だけでなく老齢厚生年金も70歳まで繰下げると、(今後の報酬設定を変更しない場合であっても)65歳時の老齢厚生年金(経過的加算部分)も1.42倍に増額されます。
・65歳時の老齢厚生年金(経過的加算部分)97,473円×1.42倍=138,412円 
・20年間の合計額:2,768,240

なお、65歳到達月以降の厚生年金保険加入期間が反映することにより、毎年10月分からの「在職定時改定」や70歳時改定(・退職時改定)で老齢厚生年金(報酬比例部分)が増額された分や、それらのタイミングで老齢厚生年金(経過的加算部分)が「厚年期間」480月になるまでを限度として増額された分については、老齢厚生年金を繰り下げたとしても繰下げ増額されません。

 また、65歳到達月の翌月から繰下げ申出月までの各月において、65歳時の老齢厚生年金(報酬比例部分)が全額支給停止となるような報酬設定で働いた場合、老齢厚生年金を繰り下げたとしても、65歳時の老齢厚生年金(報酬比例部分)は繰下げ増額されません。

 
(ポイント)

●厚生年金保険加入期間のうち老齢基礎年金額に反映するのは、20歳以上60歳未満の期間のみ

●(20歳前や)60歳以降の厚生年金保険加入期間は、老齢基礎年金額ではなく老齢厚生年金(経過的加算部分)に反映する

●老齢基礎年金を繰り下げたときに繰下げ増額の対象となるのは、65歳時の老齢基礎年金のみ

 

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