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(2024年4月10日)
60歳前後の経営者から、次のような質問を受けることがあります。
(よくある質問)
「65歳から老齢厚生年金に配偶者加給年金額が加算される見込みの59歳代表取締役です。
年金が支給停止とならないような給与設定に変更した上で老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰り上げて60歳から受給するつもりなのですが、
60歳から配偶者加給年金額ももらえるのでしょうか?」
(回答)
・特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢到達月前の人または特別支給の老齢厚生年金が支給されない世代の人であって、
・65歳に到達した時には、生計を維持している65歳未満の配偶者がいる等の要件を満たして、65歳から配偶者加給年金額が加算された老齢厚生年金を受給できる可能性が高いと思われる人が、
・老齢厚生年金および老齢基礎年金の繰上げを行った場合、
要件を満たせば老齢厚生年金に配偶者加給年金額が加算されるのは、65歳から(65歳到達月の翌月分から)です。
加給年金額を繰上げ受給することはできません。
(解説)
いつもお伝えしております通り、公的年金に関するよくある質問への回答のほとんどは、法律条文を確認すれば書いてあります。
今回の質問への回答も、次の条文に明記されています。
参照条文:厚生年金保険法附則第7条の3(老齢厚生年金の支給の繰上げ)、厚生年金保険法第44条(加給年金額)
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読みにくい条文ですが、参考までに、一部注釈を付けて、また、適宜改行して、厚生年金保険法附則第7条の3(老齢厚生年金の支給の繰上げ)を以下に引用しておきます。
関心がない方は読み飛ばしていただいて結構です。
6 第三項の規定による老齢厚生年金(奥野注:繰上げ請求した老齢厚生年金)の額について、
第四十四条(奥野注:加給年金額について定めた条文)及び平成二十五年改正法附則第八十六条第一項の規定によりなおその効力を有するものとされた平成二十五年改正法第一条の規定による改正前の第四十四条の二の規定を適用する場合には、
第四十四条第一項中「受給権者がその権利を取得した当時(その権利を取得した当時」(奥野注:通常は65歳到達時のこととなります)とあるのは「附則第七条の三第三項の規定による老齢厚生年金の受給権者が六十五歳に達した当時(六十五歳に達した当時」(奥野注:(加給対象配偶者がいるかどうかをみるのは)繰上げ受給の老齢厚生年金の受給権者となった時点ではなく、繰上げ受給の老齢厚生年金の受給権者が65歳に到達した時とされています)と、
「又は第三項」とあるのは「若しくは第三項又は附則第七条の三第五項」と、
「第四十三条の規定にかかわらず、同条に定める額に加給年金額を加算した額とする」とあるのは「第四十三条第二項及び第三項並びに附則第七条の三第四項及び第五項の規定にかかわらず、これらの規定に定める額に加給年金額を加算するものとし、
(以下省略)
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なお、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢到達月前の人または特別支給の老齢厚生年金が支給されない世代の人であれば、
在職中であってもなくても、老齢厚生年金および老齢基礎年金を一緒に繰り上げることができます
繰り上げた老齢基礎年金・老齢厚生年金のうち、老齢厚生年金は在職老齢年金制度の対象となりますので、一定額以上の報酬を受けて働いている方が繰上げた老齢厚生年金を全額受給するためには、事前に給与設定を変更しておく必要があります。
ただ、繰上げには以下の通りデメリットがとても多いため、おすすめすることは通常ありません。
・繰上げする期間に応じて年金額が一生減額される
・繰上げ請求したら、取消しできない
・繰上げにより減額された老齢厚生年金も在職老齢年金制度(年金と給与の調整)の対象となる
・繰上げ請求した日以後は、事後重症などによる障害基礎(厚生)年金を請求することができなくなる(治療中の病気や持病がある方は特に注意が必要です)
・老齢厚生年金の繰上げ請求をした場合、厚生年金保険の長期加入者や障害者の特例措置を受けることができなくなる
・繰上げ請求すると、国民年金の任意加入や、保険料の追納ができなくなる
・繰上げ請求すると、厚生年金基金から支給される年金も減額される場合がある
・共済組合加入期間がある場合、共済組合から支給される老齢年金についても、原則同時に繰上げ請求することとなる
・繰上げ請求した老齢年金は、65歳になるまでの間、遺族厚生年金や遺族共済年金などの他の年金と併せて受給できず、いずれかの年金を選択することとなる
・繰上げ請求した日以後は、国民年金の寡婦年金は支給されない。寡婦年金を受給中の人は、寡婦年金の権利がなくなる
・iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入要件を満たしていてもiDeCoに加入できなくなる
(注)65歳未満の厚生年金保険被保険者は国民年金被保険者(第2号被保険者)でもありますので、繰上げ受給していないなら、iDeCoに加入できます(iDeCoの老齢給付金を受給していない場合)。
・老齢厚生年金や退職共済年金を受給中の方が繰上げ請求すると、これらの年金に定額部分の支給がある場合は、定額部分は支給停止される
・(従業員の場合)65歳になるまでの間、雇用保険の基本手当や高年齢雇用継続給付が支給される場合は、老齢厚生年金の一部または全部の年金額が支給停止となる
経営者層の場合、余命宣告を受けて、かつ、医療費の支払いに充てるお金が足りないといったような極めて限定的なケース以外、繰上げを検討する必要は通常はないと思われます。
そのようなケースではないにも関わらず、繰上げを検討する方が時々おられます。
もちろん、どのような選択をされるかは各人のご自由ですが、
繰上げ制度について誤解しておられたり、デメリットをご存じないケースも多いようです。
また、過去に繰上げ請求をした人の場合、繰上げ請求したときに、請求書に書いてある注意事項を
読んだうえで手続きされている筈なのですが、
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/rourei/kuriageseikyusho.html
65歳を過ぎると、繰上げ請求した当時のことを忘れてしまっていて、繰上げ請求したことに後悔している社長もおられます(この場合、お助けする方法はありません)。
インターネット上等では、主に定年退職者向け情報として、繰上げ受給や住民税非課税対象者となることによる「メリット」のみを強調した情報も昔から見られるところです。
年金の繰上げには十分ご注意ください。
今回取り上げた「よくある質問」における、「65歳から老齢厚生年金に配偶者加給年金額が加算される
見込みの59歳代表取締役です。」という表現は、妙な表現ですよね。
厚生年金保険に20年以上加入した人が65歳になって老齢厚生年金をもらえる権利が生じたときに、生計を
維持している65歳未満の配偶者がいれば、配偶者加給年金額が加算される、というのが配偶者加給年金額(の原則)です。
この場合、(繰上げしない場合であっても)配偶者加給年金額の加算が開始される要件を満たしているかどうかがチェックされるのは、老齢厚生年金を受ける人が65歳に到達した日です。
59歳の質問者が、「65歳から老齢厚生年金に配偶者加給年金額が加算される見込み」と言っていても、それは本人が言っているだけのことに過ぎません。
本人が65歳になるまでの間には何があるかわかりません。
本人が65歳になるまで生きていたとしても、
・配偶者が亡くなっているかもしれないし、
・配偶者と離婚しているかもしれないし、
・配偶者と生計同一でなくなっているかもしれないし、
・配偶者の前年の年収が850万円以上になっているかもしれないし、
・配偶者の前年の所得が655.5万円以上になっているかもしれないし、
・配偶者が障害年金を受給できるようになっているかもしれないし、
・配偶者が20年以上の厚生年金保険加入期間から計算される老齢厚生年金を受給できるようになって
いるかもしれません。
これらのいずれかに該当すれば、65歳からの本人の老齢厚生年金には配偶者加給年金額は加算されません。
つまり、59歳時点で、「65歳から老齢厚生年金に配偶者加給年金額が加算される見込み」という話自体が、59歳時点ではまだ不確定な話、ということなのですね。
(2024年9月23日)
最近インターネット上等で、「年金を繰り上げて投資する」ことが推奨されているのを見聞きすることがあります。
それらの記事の中には公的年金に関する誤解が含まれているものが多くみられますし、それらの記事を見聞きした人からの相談も出てきています。
そこで、今回は、「年金を繰り上げて投資する」ことについて触れてみたいと思います。
まず、「年金を繰り上げて投資する」ということからわかるとおり、このような情報は、主に60歳以上65歳未満の方向けに発信されているものです。
公的年金に10年以上加入し、そのうち、1年以上厚生年金保険に加入した人には、生年月日・性別に応じて定められた支給開始年齢になった月の翌月から65歳到達月までの間の各月について「特別支給の老齢厚生年金」が支給されます(昭和36年4月1日以前生まれの男性および昭和41年4月1日以前生まれの女性に限ります)。
この「特別支給の老齢厚生年金」を、例えば、年額120万円受給できる人が、その120万円を
・生活費に使ったり、
・銀行の普通預金や定期預金、日米の国債などの安全性資産として残しておいたりするのではなく、
・株式インデックス投資信託ETF、個別株等に投資して安全性資産を上回る配当金・分配金や値上がり益を目指そうというタイプの情報が提供されていることがあります。
十分な安全性資産残高がある方が、資産全体のうちの一部である年金を原資に、65歳までの間、今後のライフプラン・マネープランを踏まえて、信託報酬が低い全世界株インデックス投信や長年にわたる実績のある高配当株ETF等を活用する、多くの大型安定高配当・累進配当株に分散投資するなど、ある程度リスクを抑える工夫をした投資を行うことは、特に問題はありません。
マイルドな物価上昇が今後継続するならば、一定程度株式投資等インフレに強い資産で運用を行うことは合理的ともいえます。
しかし、単に「65歳までの特別支給の老齢厚生年金を受給する」だけに過ぎないことを、年金に詳しくないインフルエンサー等が、「年金を繰り上げ受給する」と発信していることが結構あります。
年金の繰上げ受給とは、65歳になる月の翌月以降の各月について支給されるのが原則である、老齢基礎年金や老齢厚生年金を65歳前から受給することです。
特別支給の老齢厚生年金を受給することは、「年金の繰上げ受給」ではありません。
先に述べた通り、特別支給の老齢厚生年金は生年月日・性別に応じて定められた支給開始年齢になった月の翌月から65歳到達月の各月までの間の各月について支給されるものですから、繰上げ受給できる老齢基礎年金・老齢厚生年金とは別個の年金です。
65歳前から特別支給の老齢厚生年金を受けた人も、65歳からは減額されない老齢基礎年金・老齢厚生年金を一生涯受給することが可能です。
しかし、例えば、特別支給の老齢厚生年金をもらえる人が、年金支給開始年齢前から老齢基礎年金・老齢厚生年金を繰上げ受給すると、特別支給の老齢厚生年金がなくなり、さらに、老齢基礎年金・老齢厚生年金は65歳までだけでなく65歳以降も一生涯、減額された年金を受け続けることとなってしまいます。
「年金を繰り上げて投資する」という情報が、もし、「特別支給の老齢厚生年金を受給して投資原資として活用する」という意味であれば、(投資手法は厳選する必要がありますが)、検討に値するでしょう。
特に、既に退職している人や定年退職後再雇用で働いている従業員さんで、退職金等一定程度の預貯金がある人にとっては、十分検討に値するでしょう。
しかし、経営者の場合は、高額報酬を受けているため現状の報酬設定のままでは特別支給の老齢厚生年金は支給停止となる方がほとんどだと思います。
例えば、報酬月額70万円・年収840万円を受けているため、特別支給の老齢厚生年金120万円が全額支給停止となっている社長が、今後も社長として働き続ける予定であれば、
・退職したり
・報酬月額39万円・年収468万円を下げたりして、
特別支給の老齢厚生年金を全額受給して、投資に充てるというプランは、(ちょうど勇退を検討していたり後継者に代表取締役を譲ることを検討していたりする場合でない限り)魅力が感じられないでしょう。
報酬設定を変更して年収840万円を維持したまま社長として働きながら特別支給の老齢厚生年金を全額受給して、投資に充てることを目指すことが望まれるのではないでしょうか。
ですから、高額報酬経営者の場合は、「年金復活プラン」の導入が前提として有効となります。
「年金復活プラン」の導入により、年収を下げずに「特別支給の老齢厚生年金を受給して投資原資として活用する」ことが可能となります。
一方、「年金を繰り上げて投資する」という情報が、「年金を繰上げ受給して投資する」という意味であれば、その情報は検討に値しないと考えます。
先に述べた通り、年金の繰上げ受給自体が、デメリットが多いため、一般的には、余命を宣告された等の限られたケースを除いて、選択しない方がよいと考えるからです。
煩雑になるため省略していますが、繰上げにはこれらの他にもデメリットがあります。
ですから、繰り上げた場合・繰り上げない場合の老齢年金受給見込額を単純に比較しただけの損得のシミュレーションは、一般的にはあまり意味がありません。
インターネット上等の情報を見聞きして、「年金を繰上げ受給して投資に充てる」選択肢を安易に採られることのないよう、十分ご注意下さい。
社長の年金セミナーや一般向けの年金セミナー等でもいつもお伝えしていることですが、毎月誕生月に届く「ねんきん定期便」に記載されている年金額の見方を間違えて、「特別支給の老齢厚生年金」と「年金の繰上げ受給」を混同して誤解されている方は、昔から多いです。
特別支給の老齢厚生年金をもらえる人の場合、特別支給の老齢厚生年金をもらう前に届いた「ねんきん定期便」には、例えば、次のような表示がされています。
(例)
64歳~
特別支給の老齢厚生年金 120万円
合計120万円
65歳から
老齢厚生年金(報酬比例部分)120万円
老齢厚生年金(経過的加算部分)6万円
老齢基礎年金 80万円
合計206万円
これは、退職している人や、年金が支給停止とならないような報酬設定で働いている人は、
・64歳から120万円、65歳から206万円の年金を受給できる見込みである(注)、
ということを示しているのですが、
・65歳から受けると206万円受給できる年金を64歳から繰り上げると120万円に減額される、と誤読している方がおられます。
(64歳から年金を受けると年額120万円しかもらえないところ、65歳まで繰り下げると年額206万円に増額される、と誤読している方もおられます)
(注)実際には、今後や特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢以降も厚生年金保険に加入することによって、65歳からの老齢厚生年金(報酬比例部分)は、特別支給の老齢厚生年金の額よりも多くなっていきます。
厚生年金保険に加入して働いているものの、年金支給開始年齢を迎える前に退職する予定の方が、老齢厚生年金の繰上げを検討する場合は、次の点にも注意が必要です。
・老齢厚生年金を繰り上げて受給している人は、退職して1月経過したとしても「退職時改定」が行われないため、当面、繰上げ請求後の厚生年金保険加入記録(厚生年金保険加入期間および加入期間中の報酬・賞与額)が老齢厚生年金額に反映しないままとなります。
(厚生年金保険法附則第15条の2、厚生年金保険法附則第7条の3第5項)
・その後、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢を迎えたときや、65歳を迎えたときになってから、年金額に未反映のままとなっている厚生年金保険加入記録も加味して、翌月分からの年金額が増額改定されます。(厚生年金保険法附則第13条の4第5項、厚生年金保険法
附則第13条の4第6項)
年金の繰上げについては、国民年金法・厚生年金保険法の本則条文には定められておらず、附則において定められているため、基本的な定めについてすら、一般の方が条文の定めを確認することは難しい状態にあります。
繰上げの細則についても、附則において定められていますので、なおさらわかりにくくなっています。
そこで、今回はご参考までに、根拠条文も明記しておきました。
疑問点がある方は、インターネット上の「e-GOV法令検索」等で厚生年金保険法附則の条文をご確認ください。
(注)年金支給開始年齢前に繰上げ請求する場合は、老齢基礎年金・老齢厚生年金を一緒に繰り上げることとなります。
特別支給の老齢厚生年金を受給できる世代の方(昭和36年4月1日以前生まれの男性および昭和41年4月1日以前生まれの女性)が、特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢の前月までに繰上げした場合は、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに繰上げることとなります(その後に繰上げした場合は、老齢基礎年金のみ繰り上げることとなります。この場合、老齢厚生年金の繰上げはできません)。
特別支給の老齢厚生年金を受給できない世代の方(昭和36年4月2日以後生まれの男性および昭和41年4月2日以後生まれの女性)が繰上げした場合は、老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに繰り上げることとなります。
なお、上記のいずれの世代の方であっても、老齢基礎年金は給与との調整(在職老齢年金制度)の対象外ですので、高額報酬を受けていても全額受給できますが、老齢厚生年金は在職老齢年金の対象となりますので、高額報酬を受けている方が全額受給したい場合は、報酬設定を変更する必要があります。
(2024年10月7日)
【質問】老齢基礎年金を繰り上げて、老齢厚生年金を繰り下げることはできるのでしょうか
【回答】
老齢基礎年金のみを繰り上げて老齢厚生年金のみを繰り下げることができる人は、限られています。
繰上げ請求をした場合に繰上げ受給することとなる年金は、生年月日・性別等により、以下の通りとなります。
1.特別支給の老齢厚生年金をもらえない世代の人(昭和36年4月2日以後生まれの男性および昭和41年4月2日以後生まれの女性)が繰上げ請求する場合は、老齢基礎年金・老齢厚生年金をともに繰上げ受給することとなります。
2.特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分のみの年金)を61歳以降(61歳、62歳、63歳、または64歳)から受給できる世代の人(昭和28年4月2日から昭和36年4月1日までに生まれた男性および昭和33年4月2日から昭和41年4月1日までに生まれた女性)が年金支給開始年齢到達前に繰上げ請求する場合も、老齢基礎年金・老齢厚生年金をともに繰上げ受給することとなります。
したがって、上記1または2に該当する場合は、老齢厚生年金を繰り下げることはできません。
3.特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分のみの年金)を60歳から受給できる世代の人(昭和24年4月2日から昭和28年4月1日までに生まれた男性および昭和29年4月2日から昭和33年4月1日までに生まれた女性)が繰上げ請求した場合は、老齢厚生年金を繰り上げることはできないため、老齢基礎年金のみを繰上げ受給することとなります。
したがって、3に該当する人は、老齢厚生年金のみを繰り下げることもできます。
(典型的な事例)
昭和29年9月20日生まれ(70歳)A社長(女性)。75歳頃までは働き続ける予定。
年金事務所発行の試算結果記載の「基礎期間」(老齢基礎年金額に反映する公的年金加入期間のことです)は、1号納付20月、3号納付200月、厚船2号(20歳以上60歳未満の厚生年金保険加入期間のことです)160月。
したがって、満額の老齢基礎年金額(令和6年度額)は、644,179円(注)です。
(注)昭和31年4月1日以前生まれの人の満額の老齢基礎年額813,700円×(20月+200月+160月)/480月→644,179円
A社長は、特別支給の老齢厚生年金として報酬比例部分のみの年金を60歳から受給できた人です(報酬が高かったためずっと支給停止でした)。
したがって、繰上げ請求する場合は、老齢基礎年金のみを繰り上げ請求することとなります。
60歳になったときに知り合いの社長から「厚生年金に加入して働いていても繰り上げると年金を一部もらえる」と聞いて繰上げ請求をし、老齢基礎年金のみ60月繰上げた30%減額された老齢基礎年金(注2)を65歳までも65歳からも受給してきました。
(注2)30%(60月×0.5%)減額。したがって繰上げによって減額される額は193,254円(644,179円×30%)です。年金事務所発行の老齢基礎年金額(令和6年度額)を示す試算結果には、次の通り印字されます。
定額 644,179円
繰上下額 -193,254円
内訳合計額 450,925円
なお、繰上げ減額率は1月あたり0.4%ではなく、1月あたり0.5%です(令和3年度以前の繰上げ減額率は1月あたり0.5%でした。ちなみに、昭和37年4月1日以前生まれの人は、令和4年度以降に繰上げ請求する場合も減額率は1月あたり0.5%です)。老齢基礎年金については10.5%減額が一生涯続くこととなってしまっています。
この世代の経営者は特別支給の老齢厚生年金の全額が支給停止となるような人がほとんどでした(令和3年度以前は65歳までの在職老齢年金制度の基準額は28万円でした)。
そのような経営者に対して、「働きながら年金の一部をもらう方法がある」というおトク情報として老齢基礎年金の繰上げに関する情報が提供されているケースがありました。
65歳以降も老齢基礎年金が一生涯減額されるなどの繰上げのデメリットについてよく理解しないまま老齢基礎年金を繰上げ受給した経営者が、後になってデメリットに気づき残念な思いをする事例も珍しくありません。
A社長が65歳になると特別支給の老齢厚生年金の受給権がなくなり、老齢厚生年金の受給権が生じましたが、高額報酬を受けており経過的加算部分を除いて老齢厚生年金は支給停止となるため老齢厚生年金は請求せず、結果として老齢厚生年金はこれまで繰下げ待機状態となっていました。
70歳になって繰下げ申出したら老齢厚生年金が65歳時の1.42倍に増えていると思い込んで期待して訪問した年金事務所で、老齢厚生年金の繰下げ申出をしてもほとんど年金額は繰下げ増額されないことを伝えられ、大きなショックを受けました。
65歳時の老齢厚生年金(報酬比例部分)が65歳到達月の翌月から70歳到達月までずっと全額支給停止となるような報酬設定だったため、老齢厚生年金を70歳まで繰り下げても増額されるのは経過的加算部分のみとなるのです。
A社長のように、年金に関する知識不足が原因で65歳前に老齢基礎年金を繰上げてしまい後悔し、さらに70歳頃になって、老齢厚生年金の繰下げについて誤解していたことに気づき後悔する社長もいます。
このようなケースでは、過去に支給済の給与を変更するわけにはいきませんので、過去の思い違いについて回復方法はありません。できるのは、今後の報酬設定変更だけです。
A社長は昭和27年4月2日以後生まれですから、最高75歳まで繰下げできます。
今後も働き続けるのであれば、65歳時の老齢厚生年金(報酬比例部分)が支給停止とならないような報酬設定に今後変更して、最高75歳まで繰下げ待機することで、老齢厚生年金(報酬比例部分)の繰下げ増額効果を一定程度生じさせることはできます。
4.特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分のみの年金)を61歳以降(61歳、62歳、63歳、または64歳)から受給できる世代の人(昭和28年4月2日から昭和36年4月1日までに生まれた男性および昭和33年4月2日から昭和41年4月1日までに生まれた女性)が年金支給開始年齢到達以後に繰上げ請求した場合も、老齢厚生年金を繰り上げることはできませんので、老齢基礎年金のみを繰上げ受給することとなります。
したがって、4に該当する人が65歳からの年金を繰り下げる場合も、老齢厚生年金のみを繰り下げることとなります。
この場合も、前記3に該当する人と同様、老齢厚生年金の繰下げと在職老齢年金制度の関係について誤解したまま繰下げ待機することがないよう注意が必要です。
(ポイント)
●老齢基礎年金のみ繰上げ・老齢厚生年金のみ繰下げができる人は限られている
●老齢厚生年金のみ繰下げとなる人も、65歳以降の報酬設定には注意が必要
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