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Q.個人事業主でも厚生年金保険・健康保険に入れるのですか?

法律の規定を理解し、働き方の実態を確認することが重要

(20260109)

Q.個人事業主でも厚生年金保険・健康保険に入れるのですか?
そのような勧誘を受けたのですが、問題はないでしょうか?
 

【回答】

個人事業主を対象にSNS等で違法な社会保険加入コンサルティングに誘導している業者は、以前からよくみられます。

そのような業者が行っている手法が適法か違法かを判断するためには、法律の規定を理解した上で、その業者における働き方の実態を確認することが重要です。

 

法律上の原則:要件を満たせば、法人代表者等役員も厚生年金保険・健康保険に加入できる

「適用事業所に使用される」70歳未満の人は、適用除外者(厚生年金保険法第12条)に該当しない限り、厚生年金保険の被保険者となります(同法第9条)。
 

また、健康保険の被保険者とは、「適用事業所に使用される」であって適用除外者に該当しない人、および、任意継続被保険者をいいます(健康保険法第3条第1項)。
 

以上より、個人事業主が厚生年金保険および健康保険に加入したい場合には、次のような適法な方法があります。
 

  1. 個人事業の全部を法人化する(複数の個人事業を行っている人は、そのうちの一部の事業のみを法人化することも可能)
  2. 法人代表者等役員として法人の経営に従事する
  3. その法人から労働の対償として役員給与を受ける
     

13をすべて満たせば、法人(適用事業所)に使用される人として、後期高齢者医療の被保険者となる前(原則75歳未満)であれば健康保険に入れ、70歳未満であれば厚生年金保険にも入れます。


(参考:昭和24728日 保発第74号)

○法人の代表者又は業務執行者の被保険者資格について

法人の理事、監事、取締役、代表社員及び無限責任社員等法人の代表者又は業務執行者であつて、他面その法人の業務の一部を担任している者は、その限度において使用関係にある者として、健康保険及び厚生年金保険の被保険者として取扱つて来たのであるが、今後これら法人の代表者又は業務執行者であつても、法人から、労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者の資格を取得させるよう致されたい。

なお、法人に非ざる社団又は組合の総裁、会長及び組合及び組合長等その団体の理事者の地位にある者、又は地方公共団体の業務執行者についても同様な取扱と致されたい。


 

 

厚生年金保険・健康保険に加入できる二つのケース(法人役員として加入・従業員として加入)

ですから、売上・所得が一定以上となった段階で、自身で法人を設立して厚生年金保険・健康保険に加入することを検討するのが一般的ですが、「自身で法人を設立しなくても厚生年金保険・健康保険に加入できる」と謳って社会保険加入を勧めている業者も複数存在します。

しかし、適法に厚生年金保険・健康保険に加入できるのは以下のいずれかのケースに限られます。

1) 法人役員として加入できるケース

・役員として法人の経営に従事している実態がある

・その法人から労働の対償として役員給与を受けている
 

2) 従業員として加入できるケース

・厚生年金保険・健康保険の適用事業所の従業員として勤務している実態がある

・所定労働時間および所定労働日数が、同じ事業所に使用される「通常の」従業員の「4分の3以上」(または、「特定適用事業所」(令和7年度現在は50人超の企業)等において、週所定労働時間20時間以上等の要件を満たしている)

・その事業所から労働の対償として給与を受けている
 

1)(2)いずれの要件も満たしていないのに加入することは、問題があります。
 

まず、被保険者となる要件を満たしていない人について事業主が被保険者資格取得届を提出することは違法であり、罰則も設けられています。

 

健康保険法第48条(届出)

適用事業所の事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、被保険者の資格の取得及び喪失並びに報酬月額及び賞与額に関する事項を保険者等に届け出なければならない。

・同法第208条第1

 事業主が、正当な理由がなくて次の各号のいずれかに該当するときは、6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する。

一 第48条(第168条第2項において準用する場合を含む。)の規定に違反して、届出をせず、又は虚偽の届出をしたとき。


被保険者要件を満たしていない人について資格取得届を提出する行為は、そもそも被保険者資格が発生していないにもかかわらず、「厚生労働省令」(健康保険法施行規則第24条第1項)に基づく「資格取得年月日」等について事実に反する届出を行うものであり、健康保険法第48条に違反する「虚偽の届出」に該当するといえます。

(注)厚生年金保険法第27条・同法第102条第1項第1号にも同様の規定があります。

 

(注2)健康保険被保険者となったとして世帯主が市町村に届け出た国民健康保険の資格喪失届(国民健康保険法第9条第1項・同法施行規則第13条第1項)が「虚偽の届出」であった場合等の過料については、国民健康保険法第127条第1項に定めがあります。また、「偽りその他不正の行為により」国民健康保険料等の徴収を免かれた場合の過料については、同法同条第3項に定めがあります。これらの定めはいずれも、法定の過料を科する規定を市町村が条例で設けることができるというものです。
 

実態によれば本来は厚生年金保険・健康保険に加入できない人を形式的にだけ要件を満たしているかのように偽って加入させようとする業者には、絶対に関わらないようにしましょう

 

日本年金機構の疑義照会回答より

法人代表者等役員と会社との関係は労働契約ではなく委任契約関係のため、従業員と異なり、所定労働時間や所定労働日数という概念はありません。
 

したがって、実態として役員業務に従事していないにもかかわらず、形式的に役員に就任させて加入させるケースがあるようです。
 

しかし、法人役員が厚生年金保険・健康保険の被保険者となるかどうかに関する日本年金機構の疑義照会回答によると、「その業務が実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であり、かつ、その報酬が当該業務の対価として当該法人より経常的に支払いを受けるものであるかを基準として判断」されることとなっています。

 

社会保険審査会裁決例より

実態として加入要件を満たしていないにもかかわらず形式的に届出されていた資格取得を保険者が取り消した処分について、社会保険審査会が妥当だと示した裁決例(平成15630日)もあります。概要は次の通りです(『裁決例による社会保険法-国民年金・厚生年金保険・健康保険-第2版』(民事法研究会)所収の事例を踏まえ、筆者において要約しました)。

個人事業主を主な顧客とする法人が、顧客本人やその配偶者等を、自社が経営する事業所の「在宅勤務社員」と位置付けて厚生年金保険・健康保険の被保険者資格を取得させるしくみを設け、一定期間にわたり約90名の資格取得届を提出していました。

しかし、投書を契機として保険者による調査が行われた結果、これらの在宅勤務社員は実態として適用事業所に使用される者とは認められないとして、全員分の資格取得の確認が取り消される処分が行われました。

この処分に対し不服申立てがなされましたが、実態を踏まえると本件の在宅勤務社員は「適用事業所に使用される者」とは認められず、保険者が行った資格取得確認の取消処分は妥当であるとして、社会保険審査会は原処分を支持しました。

 

なお、この事案は従業員として加入させていたものですが、加入要件を満たしていない(「適用事業所に使用され」ていない)人の資格取得が法律上認められないことは、役員として加入させていたとしても同じです。

 

(ポイント)

●要件を満たしていれば、法人代表者等役員も厚生年金保険・健康保険に加入できる

●実態として要件を満たしていないのに、事業主が資格取得の届出を行うことは違法

 

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