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(2026年9月2日)
日本経済新聞に、「GPIF、過去10年は『3勝7敗』積極運用の成果見えず」という記事が掲載されていました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB208LI0Q6A820C2000000/
「3勝7敗」と聞くと、皆さんはどのような印象を持つでしょうか。
「年金積立金の運用は、10年間のうち7年間も失敗していたのか」
「私たちの年金の大切な積立金を、うまく運用できていないのではないか」
そんな不安を感じる人もおられるかもしれません。
しかし、記事を読むと、この「3勝7敗」は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が10年間のうち7年間、運用で損失を出したという意味ではありません。
ここは、年金積立金の運用を考えるうえで誤解してはいけない大切なポイントです。
■「3勝7敗」は利益と損失の勝敗ではない
GPIFは、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式を基本的に25%ずつ保有する「基本ポートフォリオ」を定めています。
それぞれの資産には、市場全体の動きを示すベンチマーク(指数)があります。国内株式ならTOPIX、外国株式ならMSCI ACWIなどです。
これらを基本ポートフォリオの割合に応じて組み合わせたものが「複合ベンチマーク」です。
簡単にいえば、
「GPIFと同じような資産配分で、それぞれ市場平均どおりに運用していたら、どの程度の収益になったのか」を示す比較対象です。
日本経済新聞がいう「3勝7敗」とは、過去10年間でGPIFの実際の運用収益率が、この複合ベンチマークを上回った年度が3回、下回った年度が7回だったという意味です。
したがって、「7敗=7年間損をした」ではありません。
たとえば2025年度のGPIFの運用収益率は16.47%でした。大幅なプラスです。
それでも、複合ベンチマークを0.18ポイント下回ったため、この記事では、「敗」の側に数えられています。
一般に「3勝7敗」といえば、3回儲かって7回損をしたような印象を受けやすいでしょう。
しかし、この記事でいう「勝敗」は、それとはまったく意味が違います。
■では、記事の問題提起は間違っているのか
だからといって、この記事が提起している問題に意味がないわけではありません。
むしろ、資産運用の観点からは重要な問題を指摘しています。
市場の指数に連動することを目指す運用を「パッシブ運用」と呼ぶのに対し、運用者が銘柄などを選び、市場平均を上回る収益を目指す運用を「アクティブ運用」といいます。
GPIFの運用は大部分がパッシブ運用で、アクティブ運用は一部ですが、近年はアクティブ運用の強化も進めています。
当然ながら、アクティブ運用には運用会社などへの報酬がかかります。
記事では、GPIFが運用改革で頼る米国のコンサルティング会社との契約について、複数年で46億円の固定報酬に加え、成果に応じた実績連動報酬次第では最大278億円を支払う契約になっていることも紹介しています。
多額の費用をかけて市場平均を上回る運用を目指す以上、それに見合った成果が得られているのかを検証することは必要でしょう。
実際、記事によれば、過去10年間でGPIFの実際の運用が複合ベンチマークを上回ったのは3回にとどまっています。
つまり、少なくともこれまでの結果を見る限りでは、基本ポートフォリオに沿って単純に市場平均に連動する運用をしていた方が、結果的に成績がよかった年度が多かったことになります。
市場平均を上回り続けることがいかに難しいかを示す結果ともいえるでしょう。
■年金積立金の運用全体とは分けて考える必要がある
一方で、私(奥野)が気になるのは、この問題と「GPIFによる年金積立金の運用そのものがうまくいっているのか」という問題が、一般の人には混同されかねないことです。
両者は分けて考える必要があります。
GPIFの運用でまず注目したいのは、長期・分散投資です。
GPIFは国内外の株式や債券に資産を分散し、短期的な市場変動があっても、長期的な観点から運用を続けています。
2001年度に市場運用を開始して以降、リーマンショックのような大きな下落も経験しました。それでも、短期的な相場変動に一喜一憂することなく、長期的な観点から分散投資を続けてきました。
その結果、2025年度末までの累積収益額は約197兆円に達しています。
もちろん、この約197兆円という数字だけを見て、「GPIFには市場平均を上回る優れた運用能力がある」と評価することも適切ではありません。
株式や債券の市場そのものが長期的に成長してきたこと、特に近年の株式市場の成長による収益が大きいからです。
しかし、だからといって約197兆円の累積収益に意味がないわけでもありません。
大切なのは、短期的には大きな損失が発生することがあっても、長期・分散投資という基本方針を守り続け、市場の成長を長期的に取り込んできたことです。
■個人の資産形成にも重要な示唆がある
今回の記事を読んで、私はもう一つ興味深いことを感じました。
それは、巨額の資金を運用し、世界中の専門家の知恵を借りることのできるGPIFでさえ、市場平均を継続して上回ることは簡単ではないということです。
これは、私たち個人の資産形成を考えるうえでも示唆的です。
「もっと上がる銘柄を探そう」
「相場が下がりそうだから、いったん売っておこう」
「今度はこの投資手法が有望らしい」
こうして市場平均を上回ろうとすればするほど、売買が増え、投資方針がぶれ、かえって思うような成果を得られなくなることがあります。
それよりも、自分に合った資産配分を決め、広く分散された低コストのインデックスファンドなどを利用し、相場が良いときも悪いときも長期間続けていく。
一見すると地味ですが、こうした方法には十分な合理性があります。
GPIFが長期にわたり基本的な資産配分を定めて分散投資を続け、大きな累積収益を上げてきたことと、GPIFでさえ市場平均を継続的に上回ることは容易ではないという今回の記事の指摘は、決して矛盾するものではありません。
むしろ、この二つをあわせて考えると、長期・分散投資の意味がよりよく見えてきます。
■見出しの「3勝7敗」という数字だけで不安にならないように
GPIFが一部で行っているアクティブ運用などが、費用に見合った成果を上げているのか。
これは今後も検証していく必要があります。
しかし、それは「GPIFによる年金積立金の運用が失敗している」という話とは違います。
「3勝7敗」という言葉だけを見て、私たちの年金積立金が危ないのではないかと不安になる必要はありません。
むしろ今回の記事から私たちが学べることの一つは、
「市場平均を上回り続けることは、プロにとっても難しい。だからこそ、長期・分散投資という基本を守り続けることが大切である」ということではないでしょうか。
年金についても資産運用についても、目を引く一つの数字だけで判断するのではなく、「その数字が何を意味し、何と何を比較したものなのか」を確認することが大切です。
「3勝7敗」も、その意味を正しく理解すれば、GPIFの年金積立金運用について不安になる数字ではないのです。
最近、たまたま、GPIFの年金積立金運用に関する原稿を書き上げたところに、ちょうど
この日経新聞記事が掲載されましたので、触れてみました。
公的年金・社会保険・資産運用等については、新聞・雑誌などの記事が正しくても、その記事を読んだ一般の方が、制度や現状について誤解することにつながってしまう、ということがよくあります。
特に、「3勝7敗」のような、それだけを見たら一般の方は不安に感じてもおかしくはない、インパクトのある見出しが付けられた記事も多いため、記事の内容をよく読むように、注意が必要だと感じています。

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