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令和10年(2028年)4月1日からの遺族厚生年金の改正に関するよくある誤解事例

年収850万円以上でも遺族厚生年金をもらえるようになるのでしょうか

(2025年11月25日)

 

【経営者層等からのよくある質問】

令和7年年金法改正で令和10年4月から遺族厚生年金の改正が行われ、遺された遺族の年収が850万円以上であっても遺族厚生年金が支給されることとなる、との記事を読みました。

 

本当に、遺族厚生年金が支給されるための年収要件は廃止されるのでしょうか。

 

【回答】

令和7年年金法改正により、令和1041日から遺族厚生年金の制度が大きく変わります。

 

年金相談の現場において混乱している方もみられるのが、「年収850万円以上でも遺族厚生年金が受給できるようになるのか?」という点です。

 

SNSやインターネット上の一部の記事では「遺族厚生年金の年収要件が廃止される」といった表現が散見されますが、これは制度の一部だけを切り取った誤解です。

 

以下に、「年収要件」とは何かを解説した上で、改正法の条文に拠ってこの問題を整理し、ポイントを記載します。

 

 

結論から言うと、年金受給世代夫婦の場合は、令和104月以後も、遺族厚生年金が支給されるためには、遺族の年収要件(原則として前年の年収850円未満または前年の所得655.5万円未満)を満たしている必要があります。

 

 

以下は、ご関心のある場合のみお読みください。

 

遺族年金の「生計維持要件」とは、「生計同一」要件+「年収要件」

遺族厚生年金を受けられる遺族は、「被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母」であって、「被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時」、「その者によつて生計を維持していたものとする」ことが、令和1041日施行の厚生年金保険法第591項で定められています(父母・祖父母については60歳以上であることが必要です。また、子・孫については、18歳に達する日以後の最初の331日までの間にあるか、または、20歳未満で障害等級の1級もしくは2級に該当する障害の状態にあり、かつ、現に婚姻をしていないことが必要です)。
 

ここでの「生計を維持」とは、生計を同じくし(生計同一要件)、かつ、年収または所得が基準額未満である(年収要件)ことをいいます(厚生年金保険法施行令第3条の10、生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて(平成23323日年発03231号日本年金機構理事長あて厚生労働省年金局長通知))。
 

そして、「生計維持要件」のうちの「年収要件」は、具体的には次の通りとされています。

・原則として、(一時的なものを除いた)前年の収入(前年の収入が確定していない場合にあっては前々年の収入)が850万円未満、または、(一時的なものを除いた)前年の所得(前年の所得が確定していない場合にあっては前々年の所得)が655.5万円未満

年収要件が撤廃されるのは、60歳未満の配偶者(妻は経過措置あり)」

まず大事なポイントは、遺族厚生年金の受給に必要な「生計維持要件」(=「生計同一要件」+「年収要件」)が完全に廃止されるわけではない、ということです。
 

改正により年収要件が撤廃されるのは 「60歳未満の配偶者」(子の有無は問わない。なお、妻の場合は後述の経過措置あり)が受ける遺族厚生年金の場合のみです。
 

それ以外の遺族(上記以外の配偶者、父母、祖父母、孫、子)については、令和1041日以後も年収要件を満たしていることが必要です。

 

また、遺族基礎年金に関しても年収要件は撤廃されず、死亡当時の「生計維持要件」(「生計同一要件」+「年収要件」)が、遺された配偶者や子について必要です(令和1041日施行の国民年金法第37条の2)。

したがって例えば、妻が亡くなり、年収要件を満たさない高収入の夫が遺された場合、夫は遺族基礎年金を受給できませんが、生計維持要件を満たす子が遺族基礎年金を受給することになります)。

 

遺族厚生年金で年収要件が撤廃されるケースの根拠は?

令和1041日施行の厚生年金保険法第59条第2項では、次のように規定されています。
 

「被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた六十歳未満である配偶者は、前項の規定にかかわらず、遺族厚生年金を受けることができる遺族とする。」

ここで重要なのは、「前項」(第59条第1項)にはある「生計を維持」(=生計同一要件+年収要件)の文言が、第2項にはないということです。

 

つまり改正後は、死亡当時に「生計同一」であった 60歳未満の配偶者(子の有無は問わない。妻の場合は後述の経過措置あり)であれば、「年収要件」は満たしてなくても遺族厚生年金を受給できる遺族となります。
 

SNS等で見られる「遺族厚生年金の年収要件がすべてなくなる」という情報は、改正後の厚生年金保険法第59条の第1項・第2項の区分を無視しているため、誤りです。

 

子のない60歳未満の配偶者(妻は経過措置あり)は5年有期給付に

令和1041日以後の死亡について、「子のない60歳未満の配偶者」が受ける遺族厚生年金は、「5年有期給付」が原則となります。


これは、現行制度で「妻(30歳未満・子なし)」に限定されている5年有期給付を、男女を問わず「子のない60歳未満の配偶者」に拡大するものです。

 

ただし、この60歳未満」は、妻については、改正初年度(令和10年度)は「40歳未満」とされ、そこから20年かけて段階的に60歳未満に引き上げられます。これは、女性にとっての保障の急激な縮小を避けるための経過措置です。
 

この経過措置に関しては、改正法附則第15条第1項で次のことが定められています。

施行日(令和1041日)から令和30331日までに夫が死亡した場合における当該死亡の当時60歳未満である妻に対する改正後厚年法第59条第2項等の規定の適用については、「配偶者」とあるのは「配偶者(平成元年42日以後に生まれた者に限る。)」とする。
 

したがって、令和1041日以降「5年有期給付」の遺族厚生年金(年収要件不要)を受給する可能性のある女性(妻)は、平成元年42日以後に生まれた人に限られます。
 

「平成元年42日以後に生まれた者」とは、施行初年度(令和10年度)末に40歳未満であることを意味します。

 

「5年有期給付」の支給停止と失権について

なお、改正後の厚生年金保険法第59条第2項に定める「60歳未満の配偶者」(妻の場合は平成元年42日以後に生まれた者に限る)が受ける遺族厚生年金は、次のような日(「基準日」から5年を経過したときは、前年の所得が一定の基準額を超える場合には、基準日の翌月分から「支給を停止する」こととなっています(令和1041日施行の厚生年金保険法第65条第1項)
 

・子のない60歳未満の配偶者が有期給付の遺族厚生年金の受給権を取得した日 (=夫の死亡日)

または

・子のある配偶者が60歳到達日前に遺族基礎年金の受給権が消滅した日(つまり、子のある妻に遺族厚生年金・遺族基礎年金の受給権が生じた後、妻が60歳になる前に「子」が原則18歳年度末を過ぎて、「子」のない妻となった日)
 

その上で、前年所得が基準額を超えたことにより、遺族厚生年金の 「全部の支給を停止」令和10年4月1日施行の厚生年金保険法第65条第3項) され、その全部支給停止が2年間継続したときは、5年有期給付の遺族厚生年金は失権(受給権が消滅)します(令和10年4月1日施行の厚生年金保険法第63条第2項第1号)。
なお、障害年金の受給者は所得による支給停止の対象外です。


 このほか、老齢厚生年金の受給権を取得したときや65歳に達したときにも、有期給付の遺族厚生年金は失権します(同条同項第2号・第3号)。





 

(遺族年金の「年収要件」のポイント)

●遺族年金の「生計維持」とは、「生計同一要件」および「年収要件」を満たしていること

●令和1041日以後の死亡について遺族厚生年金の「年収要件」が撤廃されるのは、死亡時60歳未満の配偶者(妻の場合は平成元年42日以後に生まれた者に限る)

 

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