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(2016年9月20日)
以前、高額報酬の法人経営者が65歳時のはがき形式の年金請求書において、
「老齢厚生年金のみ繰下げ希望」に○を付けて返送された場合や、
「老齢基礎年金のみ繰下げ希望」に○を付けて返送された場合について、
解説いたしました。
それぞれなかなか複雑で、誤解も多いところです。
メルマガ読者様からも、
「いつも他では聞けない貴重なお話を、ありがとうございます。」
等嬉しいご感想メールをいただいています。
高額報酬の60歳代前半の経営者が、原則65歳からもらえる老齢基礎年金をなぜか65歳前から繰上げて受給されている事例を見ることがたまにあります。
そして、このような選択をされている方は、年金制度について大きな誤解をされている方も多いように感じていますので、
注意喚起のために今回解説することといたします。
まずは、基本事項の確認から。
老齢年金の受給資格期間(現在原則25年。近い将来10年に短縮される見込みです。)を満たしている方の場合、次のような形で老齢年金が受給できます。
1.60歳代前半
性別、生年月日に応じ定められている支給開始年齢から「特別支給の老齢厚生年金」を受給。
ただし、厚生年金加入期間が1年未満の方は受給できません。
また、昭和36年4月2日以降生まれの男性や昭和41年4月2日以降生まれの女性には支給されません。
2.60歳代後半以降
65歳から老齢基礎年金・差額加算(経過的加算)・老齢厚生年金(報酬比例部分)を受給。
ただし、厚生年金加入期間が1月もない方の場合は、老齢厚生年金(報酬比例部分)は支給されません。
1、2とも過去に厚生年金基金加入期間がある方の場合は、別途「基金代行額」や基金の独自給付が受給できます。
今回解説する事例は、60歳代前半の経営者が、本来65歳から受け取る老齢基礎年金を60歳以上65歳未満の任意の時点から老齢基礎年金をもらい始めることとしている、「支給繰上げ」のケースです。
繰上を選択することによって、老齢基礎年金が早くからもらえるのはよいのですが、1か月早く受けるごとに0.5%(1年早く受けるごとに6%)だけ老齢基礎年金の年金額が一生減額されたままとなります。
例えば、20歳から60歳到達まで何らかの公的年金に加入して、65歳から満額の老齢基礎年金(平成28年度は780,100円)を受給できる人が60歳から老齢基礎年金を繰上げしてもらうとどうなるでしょうか。
この場合、5年(60ヶ月)繰上げですから、原則通り65歳からもらい始める場合と比べると、30%(0.5%×60ヶ月)だけ老齢基礎年金が減額され、546,070円(780,100円×0.7)となります。
毎年23万円以上の年金減額が一生涯続きますので、それなりに大きいですよね。
ましてや、経営者の方の場合は、60歳台前半においても50万円、100万、200万円等高額な役員報酬を毎月受けておられる方が多いですから、生活が苦しくて繰上げ受給を検討せざるをえない無職の方等の場合と違って、老齢基礎年金を繰上げる必要性は全然なさそうに思えます。
しかし、なぜか老齢基礎年金を65歳前から受給されている社長様がおられます。
もちろん老齢基礎年金の繰上げはご本人が自由に選択できますから、私のような外部の人間がとやかくいうべきものではありません。
自分は○歳までは生きない可能性が高いと思うから先にもらっておくことにした、とおっしゃる社長様もおられますので、それはそれで一つの考え方だと思うのです。
問題なのは、上記のような例ではなくて、次のようなケースです。
1.60歳代前半でもらえる特別支給の老齢厚生年金の受給年齢になったが、報酬が高いので、現役社長として働いている間は年金が全額支給停止となる。
2.特別支給の老齢厚生年金をもらうためには、報酬を大幅に減額するか、
常勤役員を退任して厚生年金被保険者でなくなる必要がある。
3.報酬の減額もしたくないし、常勤役員も退任したくない場合でも、
本来65歳からもらえる老齢基礎年金を繰上げてもらう場合は、その年金は(65歳からもらう場合に比べて減額はされるものの)、報酬との調整の対象にならず、もらうことができる。
4.老齢基礎年金の繰上げは、常勤役員として働きながらでも自由に選択できる。
以上のような話を聞いたから、老齢基礎年金を繰上げしています、
とおっしゃる社長様がおられます。
これら4つは、それぞれ個別にみると、すべて全く正しい内容ですので、
何の問題もないのです。
ただ、これらの4つの話を聞いて老齢基礎年金を繰上げ受給している社長様の中には、今もらっている年金が老齢基礎年金を繰上げて減額されたものをもらっているということを忘れて、60歳代前半の特別支給の老齢厚生年金の代わりに受給している、という風になぜか勘違いしている方がおられるのですね。
つまり、老齢基礎年金の額が一生涯減額となってしまっていて、もうそれを取り消すことも変更することもできなくなってしまっているとということを理解していない状態なわけです。
詳しくお話をお聞きしても、なぜそのような混同をしてしまっているのか思い出せないと皆さん仰るのですね。
ただ、年金事務所の年金相談等で、働きながら年金は受けられないと聞いて頭にきて、なぜかと聞いたら、そのような選択肢もあると言われたという感じのお話をされる方が多いです。
老齢基礎年金の繰上げについては、年金額が一生涯減額になる以外にも、障害基礎年金や寡婦年金が支給されない等のデメリットも発生しますから、一般に、繰上げの意思表示には相当慎重になる必要があります。
ですから、年金事務所の年金相談においても、安易に繰上げ受給をすすめられるケースはそうそうないとは思うのですが・・・・
老齢基礎年金を繰上げ受給してしまう前に私どもにご相談いただいて、年収が高い常勤役員様でも報酬の支払方を変更することで特別支給の老齢厚生年金の7~8割程度を受給する選択肢もあることをお伝えできていれば、老齢基礎年金を繰上げされることもなかったかもしれない。
上記のような事例に遭遇するたびに、このように感じます。
上記のような方が、そのまま65歳に到達されたときに、年金受給額が変わった時点で、年金についてご相談いただくこともあります。
老齢基礎年金は65歳になっても減額されたままなのですが、差額加算部分がもらえるようになります。
また、報酬額や過去の厚生年金加入状況によっては、老齢厚生年金(報酬比例部分)のごく一部ももらえるようになる場合があります。
65歳以降は、報酬比例部分がごく一部でも支給されるようになったら、その方により生計を維持されている65歳未満の配偶者がある場合は、さらに配偶者加給年金額も全額もらえます。
配偶者の加給年金は平成28年度価格で390,100円ですから、加給年金も支給されることになると、2ヶ月に1回の年金支給額もそこそこ変わりますので、これは何だろうと気付く方が多いようです。
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