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(2024年5月14日)
4月下旬頃、SNS等で遺族年金廃止を政府が検討しているなどというデマが広がっていました。
毎度のことながら、年金法改正の前年頃からインターネット上等では、年金制度に関する根拠のないデマが多くみられるようになります。
最近は、フェイクニュース風のデマが増えていたところ、今回の遺族年金廃止のデマ記事も、昨年7月に開催された社会保障審議会年金部会においてそのような議論が行われたかのように偽ったもので、一般の方々からすると、それっぽく見えるものだったため広がったのかもしれません。
確かに、来年の年金法改正に向けて、昨年7月28日に開催された第6回社会保障審議会年金部会において、次の二つが議題に上がっていました。
・遺族年金の見直し
・老齢厚生年金に加算される配偶者加給年金額の見直し
いずれも、社長夫婦の年金にも大いに関係のある、重要な論点です。
ただ、当日は、まだ一巡目の議論の段階でしたので、各論点に関するこれまでの意見のまとめや関連データを厚生労働省年金局が資料で示した後、各委員が意見を述べるという段階でした。
したがって、私(奥野)も、当日の話題については、社労士・FPさん等向けのセミナーでは詳しく各論点・改正案内容・改正されたときの影響などを解説したのですが、メルマガ等一般の社長様方向けの情報提供では、軽く触れる程度としていました。
そんな状況で、「遺族年金廃止」などというデマを目にしてびっくりされた方もおられたかもしれません。
いつもお伝えしております通り、来年の国民年金・厚生年金保険法改正に向けた議論は、社会保障審議会年金部会において行われており、各論点についての一巡目の議論が終了し、今夏の財政検証・オプション試算結果公表を経て、本年末に年金部会における議論のとりまとめが公表される予定です。
昨年7月に行われた遺族厚生年金の一巡目の議論の際の議事録
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_0728.html
も、当日の資料
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_230728.html
も公表されていますので、どなたでも確認いただけるのですが、遺族年金廃止などということはまったく議論されていません。
当日の資料1
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001138911.pdf
の19ページに記載がある通り、
前回改正(令和2年改正)に向けた社会保障審議会年金部会における議論のとりまとめで、
「障害年金・遺族年金についても、社会経済状況の変化に合わせて見直しを行う必要がないか検証し、その結果に基づいた対応についての検討を進めていくべき」とされていました。
それを受けて、年金部会ではこれまでに、下記のような論点について意見が出されてきました。
7月の年金部会でも、これらについて委員から意見が出されました。
1.遺族厚生年金の遺族の範囲や要件の男女差の解消
2.遺族厚生年金の有期化
3.遺族年金が支給されるための「生計維持要件」(同一世帯+原則年収850万円未満)の撤廃
4.遺族基礎年金の支給停止要件の見直し
1・2は、もし改正が行われると多くの方に影響が生じますし、3については、もし改正が行われる
と、経営者夫婦にとっては朗報となるでしょう。
現在、遺族厚生年金は、再婚などしない限りずっともらえる終身年金です。
(例外的に、夫の死亡時に30歳未満で子のいない妻に対する遺族厚生年金については、平成16年
改正で、原則5年の有期給付に改正されました(平成19年4月1日施行)。
上記2(遺族厚生年金の有期化)については、年金部会ではこれまで、次のような意見が出されてきました。
(1)遺族年金は原則として終身で支給され、女性の高齢期を支える重要な機能を果たしているが、
高齢期を支える給付は、本来老齢年金なのではないか。
遺族厚生年金については、男女ともに、配偶者の死亡直後の生活の激変に際して 生活を保障するための給付として整理し、有期給付としてはどうか。
(2) 子のいない現役期の遺族厚生年金については、有期給付化の可能性を探っていくという方向性がよい。
例えば、平成16年改正では、夫の死亡時に30歳未満で、子のいない妻に対する遺族厚生年金については、原則5年の有期給付とされたところ。
ただ、その後の就業がうまくいかない場合もあるため、そういったケースを想定して高齢期の所得保障を検討する必要がある。
(3) 長期要件に該当する65歳以上で老齢厚生年金を受給する方がなくなった場合については、現行制度のままでよいのではないか。
現在、遺族厚生年金と老齢厚生年金の両方の受給権があるときは、
・65歳までは、遺族厚生年金または老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金)のいずれか一方の年金を選択して受給し、
・65歳からは、老齢厚生年金を優先支給し、「遺族厚生年金額>老齢厚生年金額」であれば、「遺族厚生年金額-老齢厚生年金額」が遺族厚生年金として支給されることとなっています(平成16年改正・平成19年4月1日施行)。
したがって、遺族厚生年金・老齢厚生年金の両方とも全額もらえるわけではありません。
この点、上記(1)のような整理をすると、遺族年金と老齢年金の整理がすっきりし、わかりやすくなるかもしれません。
上記(2)は、平成16年改正で一部導入した遺族厚生年金の有期給付化の範囲を「子のいない現役期」まで広げたらどうかという意見ですが、有期給付化する理由は、残された遺族が働いて収入を得ることができるから、であるため、就業がうまくいかなかいケースも想定して制度を検討する必要があるとされています。
上記(3)は、遺族厚生年金の有期化の対象者を広げるとしても、長年年金保険料を払ってきて
老齢年金を受給していた65歳以上の人が亡くなった場合は、(残された遺族は、遺族厚生年金を一生
受けられることを期待していると思われるので)現行通り生涯支給のままでよいのではないか、という意見です。
繰り返しますが、遺族年金を廃止したらどうか、という議論は全く行われていないのですね。
(注)
・寡婦年金(一定の要件を満たす60歳以上65歳未満の寡婦が受けられる国民年金の給付)は、(要件を満たす女性しか受けられない給付のため)廃止または見直すべき、という意見は出たことがあります。
(国民年金の保険料拠出期間が65歳までに延長されたら、寡婦年金の位置付けが不明瞭となる、
という問題もあります)
・老齢厚生年金に加算される配偶者加給年金額は、
夫婦の年齢差によって支給の有無や支給期間の長短が決まるため公平でない、
共働きが増えると対象者が減る、
配偶者が厚生年金20年未満で退職することを促す面がある、
老齢厚生年金の繰下げを阻害する面がある、
といった理由で、廃止すべきいう意見も出ています。
これらの、遺族年金とは関係のない廃止議論と、遺族厚生年金の有期化議論をミックスさせて、
「遺族年金廃止」というデマが作り上げられて、それっぽく流布されている感じがします。
(年金に関するデマのパターンのひとつとして、このようなものがよくあります)
令和7年改正に向けて、今後もデマ・フェイクニュースがいろいろ出て来る可能性がありますので、惑わされないように、十分ご注意ください。
昨年末に閣議決定された、全世代型社会保障構築のための改革工程において、「能力に応じた全世代の支え合い」の観点から、「医療・介護保険における金融所得の勘案」が、2028年度までに実施について検討する項目とされていました。
その検討項目のうちの一つとして、
「国民健康保険制度、後期高齢者医療制度及び介護保険制度における負担への金融所得の反映の在り方について、税制における確定申告の有無による保険料負担の不公平な取扱いを是正するため、どのように金融所得の情報を把握するかなどの課題も踏まえつつ、検討を行う。」とのことでした。
4月25日に開かれた自民党のプロジェクトチームの初会合で厚生労働省が改善案(源泉徴収ありを選択している株式の配当などの金融所得も、これらの保険料の算定基礎に含めるようにするというもの)を提示した、というニュースが報道されると、
「非課税と煽って新NISA利用者を集めておいて、社会保険料を掛けるのは騙し打ちだ」などの、
事実に反する感情的な意見がSNS等で広がりました。
しかし、「2028年度までに実施について検討する項目」ですから、まだ何も決まっていません。
そして、将来もしこのような見直しがなされても、また、その際に、金融所得の課税方式として源泉徴収を選んでいたとしても、会社員や公務員として働いている間の健康保険料(40歳以上65歳未満の介護保険料を含む)や厚生年金保険料は、会社から受ける給与・賞与額によって決まるものですから、(現行の健康保険法・厚生年金保険法における保険料算定のしくみが抜本的に法改正されない限り)関係がない話です。
(また、高齢化の進展により上限は引上げられてきてはいますが、65歳以降の介護保険料や、国民健康保険料・後期高齢者医療制度の保険料には、いずれも上限額があります。)
もし、将来的に、今回話題となっているような改正が行われることとなったとして、その時に会社を退職して国民健康保険に加入しており、保険料増が予想されるとしても、改正施行日までに、必要に応じミニマム法人を活用するなど、対応策を検討すればよいことです。
(その時に、ほかにも様々な改正が行われていたとしても、その時の各条件を踏まえて、最適な方法を考え実行すればよいでしょう)
(参考)ミニマム法人活用と年金・社会保険に関する解説書籍はこちら
なお、令和5年11月1日に開催された財政制度分科会の資料(財務省ホームページで公開されています)の151ページに、
https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/proceedings/material/zaiseia20231101/01.pdf
「改革の方向性(案)」として、次の通り、NISAなどの非課税所得は、保険料を掛ける対象としないことを前提とすべき旨が次の通り明記されています。
○ 現在保険料の賦課対象とされていない金融所得のうち、本人の選択によって保険料の賦課対象となるかどうかが変わり得るもの(上場株式の配当など。預貯金の利子などは含まれない。)については、公平性の観点から、保険料の賦課ベースに追加し、負担能力の判定においても活用する仕組みについて検討すべき。
○ その際、NISAなどの非課税所得(NISA口座で管理される金融資産は1,800万円(簿価残高)まで非課税)は、保険料においても賦課対象としないことを前提とする必要がある。
以上を踏まえると、特定口座(源泉徴収あり)で持っている株式等から得た配当や売却益がある場合に、それらを国民健康保険料・後期高齢者医療制度保険料や介護保険料の算定の基礎に含めるようにすることについて、「2028年度までに実施について検討」される、と考えるのが現時点での素直な理解だと思います。
それらの金融所得が一定額を超えた場合に限って、保険料に反映させることとするのか、その場合、
どの程度超えた場合に限って保険料がかかることとするのか、等も検討される可能性があるでしょう。
いずれにしても、いたずらに焦ることなく、今後の検討状況に注目していけばよいでしょう。
(2024年8月7日追記)
7月30日に開催された第17回社会保障審議会年金部会において、厚生労働省年金局より遺族厚生年金等の改正案の概要が示され、令和7年年金法改正に向けた議論が行われました。
(参考)「遺族年金制度等の見直しについて」(厚生労働省年金局)
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001281516.pdf
改正案については大きく報道されていますので、年金受給世代の社長夫婦から遺族厚生年金の見直し案について質問を受けることもあります。
改正について確定した事項は現時点ではまだありませんが、現状では、次の点について確認しておくことが重要でしょう。
・今回厚生労働省が示した遺族厚生年金の見直しを全て盛り込んだ改正法案が令和7年の通常国会で成立することとなったとしても、年金受給世代の夫婦にとって改正の影響はなく、現行と同様の制度が適用されること。
現在想定されている改正が行われたとしても影響が生じない点をまとめると、以下の通りです。
(1)改正法が成立して改正法の施行日が来たとしても、それまでに遺族厚生年金の受給権を得ていた人は、改正法施行日以降も改正前の年金が引き続き支給されます。
(2)高齢期(今のところ60歳以上と想定されています)の配偶者に生じる遺族厚生年金も現行通りです。
(3)20代から50代の・子のある配偶者に、子が原則として高校を卒業するまでの間に支給される遺族年金(遺族基礎年金・遺族厚生年金)も、世帯としてみた場合の給付内容は、現行と同様です(20代から50代の配偶者に対する遺族厚生年金は有期給付となるものの、有期給付期間の終了後、子の遺族厚生年金が18歳到達年度末まで支給されることから、世帯としてみた場合の、子を養育中の給付内容は変わらない、と説明されています)。
(4)改正法施行日において40歳以上で・(原則として高校を卒業するまでの)子のない妻に支給される遺族厚生年金(後述の中高齢寡婦加算を除いた本体部分)は、改正法施行日以降も現行と同様です。
ここまでの内容から、遺族厚生年金が改正されたとしても影響がない(または少ない)と思われる方は、以下の内容をお読みいただく必要はないかと存じますが、参考までに遺族厚生年金の改正案のポイントを以下にお伝えします(内容は検討中のものであり、今後の変更はあり得ます)。
現行の遺族厚生年金制度は、夫が働き妻が専業主婦という世帯が一般的であり、夫が亡くなった後に遺された妻が働ける環境が整っていなかった時代にできたものです。
したがって、60歳未満で死別した・(原則高校卒業までの)子のない配偶者が受ける遺族厚生年金は、現在次のように、男女差が大きい制度となっています。
・夫と死別した妻が受ける遺族厚生年金
妻が30歳未満で夫が死亡した場合:妻の受け取る遺族厚生年金は、5年間の有期年金
妻が30歳以上で夫が死亡した場合:妻の受け取る遺族厚生年金は、終身年金
・妻と死別した夫が受ける遺族厚生年金
夫が55歳未満で妻が死亡した場合:夫は遺族厚生年金を受給できない
夫が55歳以上で妻が死亡した場合:夫に遺族厚生年金の受給権が生じるが、60歳にな
るまでは支給停止で、実際に支給されるのは60歳から
ところが、今後は、男女とも働く共働き世帯が中心となりますし、配偶者が死別した後も就労できる環境が整備されつつあります。今後はますますこのような状況が進んでいくでしょう。
そのような社会全体の変化を踏まえて、20代から50代で死別した・(原則高校卒業までの)子のない配偶者の遺族厚生年金について次のような内容に見直す、という案が検討されています。
・夫と死別した妻が受ける遺族厚生年金も、妻と死別した夫が受ける遺族厚生年金も、5年間の有期年金とする。
現行制度では55歳未満で妻と死別した子のない夫は遺族厚生年金をもらえませんが、55歳以上で妻と死別した子のない夫は、60歳から遺族厚生年金(終身年金)を受給できます。
(注)遺族厚生年金と老齢厚生年金の調整については、本題ではありませんので、ここでは解説を省略します。
改正法施行日以降に20代から50代に死別した夫は、遺族厚生年金を5年間受給できることとなります。
一方、現行制度では、30歳未満で夫と死別した子のない妻は遺族厚生年金を5年間受給できますが、30歳以上で死別した子のない妻は遺族厚生年金(終身年金)を受けられます。
しかし、改正法の施行日以降は、30歳以上で死別した子のない妻であっても、遺族厚生年金が終身年金ではなく、5年間の有期年金となる人が出てきます。
具体的には、「30歳」未満という、夫と死別した・子のない妻が遺族厚生年金の有期給付対象者となる年齢上限を、改正法施行日から「40歳」未満とし、以降も段階的に引き上げていき、最終的には(改正法施行日の20年後から)「60歳」未満とすることが検討されています。
つまり、最終的には、20代から50代に死別した・子のない妻への遺族厚生年金が、5年の有期年金となります(この段階において、遺族厚生年金の本体部分について男女の給付差がなくなります)。
改正法により新たに遺族厚生年金が有期給付となる人の生活再建・生活保障に大きな影響が生じないように、次の3つの配慮措置を設けることが検討されています。
(1)死亡時分割の導入
現行制度の離婚分割を参考に、死亡者との婚姻期間中の厚正年金保険加入期間に係る標準報酬等を分割する死亡時分割(仮称)の創設を検討。
これにより、分割を受けた人の将来の老齢厚生年金額が増えます。
(2)生計維持要件における収入・所得要件の廃止
現行制度における生計維持要件のうち収入・所得要件(原則として前年の収入850万円未満または前年の所得655.5万円未満)の廃止を検討。
これにより、有期給付の遺族厚生年金の受給対象者が増えます。
(3)有期年金支給中の遺族厚生年金への有期給付加算の創設
現行制度の遺族厚生年金額(死亡した被保険者の老齢厚生年金の4分の3に相当する額)よりも金額を充実させるための有期給付加算 (仮称)の創設を検討。
これにより、遺族厚生年金が有期給付となる人の配偶者との死別直後の生活再建支援に役立ちます。
改正案通りの法律がもし令和7年の通常国会で成立したとしたら、法律に定められる施行日以降は、子のない配偶者のうち遺族厚生年金として5年間の有期年金を受けることとなる人の範囲が広がります。
配偶者が亡くなってこの有期給付を受けることとなる人の上限年齢は、施行日以後当面は「40歳未満」ですが、その後段階的に引き上げられていき、最終的には「60歳未満」とすることが想定されています。
改正法により新たに遺族厚生年金が有期給付となる人たちの生活再建・生活保障に大きな影響が生じないように、上記の(1)~(3)の配慮措置を設けることが検討されています。
この中の(2)に関連する相談が最近みられるようになってきました。
(2)生計維持要件における収入・所得要件の廃止
とは、現行制度における生計維持要件のうち収入・所得要件(原則として前年の年収850万円未満または前年の所得655.5万円未満)の廃止が検討されている、というものです。
これにより、有期給付の遺族厚生年金の受給対象者が増えることとなります。
(最近みられる質問の要旨)
遺族厚生年金の見直しに伴い、遺族厚生年金を受給できる遺族の要件である「生計維持要件」のうちの収入・所得要件が廃止される、との記事を読みました。
・夫(65歳・代表取締役)・報酬月額100万円
・妻(60歳・取締役)・報酬月額100万円
です。今後も報酬月額に変化はない予定です。
遺族厚生年金の改正が成立し、施行日以後に夫(妻)が亡くなった場合、遺された妻(夫)の前年の年収が1,200万円であっても、遺された妻(夫)は遺族厚生年金を受給できるようになるのでしょうか。
(回答)
いいえ。
遺族厚生年金の改正案において、「生計維持要件における収入・所得要件の廃止」が検討されているのは、遺族厚生年金として5年間の有期給付を受けることとなる人、つまり、20代から50代に死別した・子のない配偶者についてだけです。
(収入・所得が高い人が残された場合であっても、当面の生活再建のためには有期給付の遺族厚生年金を支給する方がよいだろうという考えにより、廃止が検討されているものです)
それ以外の人が遺族厚生年金を受給できるためには、改正法施行日以降も現在と同様、死亡日において「生計維持要件における収入・所得要件」を満たしている必要があります。
したがって、相談者のように60歳以上の夫婦のいずれかが亡くなった場合には、死亡日が改正法施行日以降であったとしても、死亡日において、原則として、遺された妻(夫)の前年(前年の収入・所得が確定していない場合は前前年)の収入が850万円未満または所得が655.5万円未満でないと、遺族厚生年金を受けることはできません。
(配偶者の死亡時に60歳以上の人は、改正法施行後も遺族厚生年金は有期給付とはならず、終身年金です)
今回解説した「生計維持要件における収入・所得要件」の廃止案が、
1.遺族厚生年金全般に適用されるものなのか
2.20代から50代に死別した・子のない配偶者に対する遺族厚生年金にのみ適用されるものなのか
は、年金受給世代の経営者様にとっては、大きな関心事だと思います。
この点ついては、令和6年7月30日の社会保障審議会年金部会でも、ある委員がこの点について質問していましたが、それに対して厚生労働省から、2である旨の回答がありました。
(参考)
社長夫婦の遺族厚生年金と「生計維持要件における収入・所得要件」の基礎については、従来から相談の多いところですので、以下のページにポイントをまとめてあります。
配偶者加給年金額、遺族厚生年金と生計維持要件(生計同一要件+収入・所得要件)
男女差の解消に伴う中高齢寡婦加算の廃止
中高齢寡婦加算は、遺族厚生年金の受給権取得当時40歳以上65歳未満である中高齢の寡婦がその後に働くことが難しいことに着目して、遺族厚生年金に加算されているものです(令和6年度は年額612,000円)。
年金制度上の男女差解消・女性の就労進展の観点から、この中高齢寡婦加算について、施行日以降段階的に、新規受給者が受ける額を少なくしていき、最終的には(改正法施行日の25年後から)、新規に中高齢寡婦加算が加算される人はいなくなるようにすることが検討されています。
なお、施行日以降に新規発生する中高齢寡婦加算は、新規発生する年度に応じた加算額とし、受け取り始めた時点の加算額は、受け取り終了まで変わらないこととされています。
(今日のポイント)
●遺族厚生年金の改正は、令和6年8月現在、まだ確定していません(令和6年12月までに社会保障審議会年金部会における議論の取りまとめが行われ、年金改正法案が令和7年通常国会に提出される見込みです)
●令和7年改正法が成立したとしても、年金受給世代の社長夫婦等への影響は生じません
国民年金の寡婦年金は、法定の要件を満たす夫が死亡した場合に、法定の要件を満たす遺された妻に60歳から65歳到達までの5年間給付されるものです。
(日本年金機構ホームページ「寡婦年金」)
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/1go-dokuji/20140422-02.html
この寡婦年金も女性にしか給付されないものです。
現在は、夫が死亡したときの妻の年齢が若くても、寡婦年金の受給権は生じます(実際に支給されるのは60歳からです)。
この点について、改正法の施行日からは、夫が死亡したときに妻の年齢が40歳以上の場合にのみ寡婦年金の受給権が生じることとなります(実際に支給されるのは60歳からです)。
「40歳以上」という寡婦年金受給権を得られる年齢の下限は、その後段階的に引き上げられ、将来的には寡婦年金制度は廃止されます。
また、現在、寡婦年金と死亡一時金の両方の受給権が生じた場合、遺された妻は、いずれか一方を選択して受給し、他方は受給できません(寡婦年金額の方が死亡一時金額よりも大きくても、寡婦年金は60歳になるまで受給できませんので、死亡後すぐに受給できる死亡一時金の方のみの選択もできるようになっています)。
寡婦年金受給権を得られる年齢の段階的引き下げが始まる改正法施行日以降は、死亡一時金の額も見直すことが検討されています。
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