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(2020年11月10日)
今回は、社長・役員が退職して会社が役員退職金を支給したものの、過大役員退職金部分があるとされるとどうなるかについて概要をお話しします。
わかりやすいように、例えば、オーナー社長が退職して会社が1億円の退職金を支給したとします。
会社は1億円全額を損金計上して法人税の申告を行うこととなります。
その後、万一税務調査が入って、このケースにおいて税務上損金算入が認められるべき適正な役員退職金額は6,000万円であり、それを超えて支払われた4,000万円は不相当に高額な部分に該当すると指摘されたとします。
もしその指摘通り修正申告に応じるとしたら、どうなるでしょうか。
この場合、会社として既に支給し損金計上を行った分の4割だけが損金算入が認められないこととなります。
したがって、過大とされた分(この事例では4,000万円)だけ利益(法人所得)が増え、法人税等の不足分を納める必要が生じます。
わかりやすいように法人税等の実効税率を30%として計算すると、追加で納める必要がある法人税等の額は1,200万円となります(延滞税については省略します)。
(注)その他、役員退職金を支給することで自社株の評価を下げる効果も期待していた場合、役員退職金の一部が過大であるとして損金算入が認められないことによって、予想していたよりも株価が下がらないというデメリットにもつながることとなります。
一方、法人税法上過大部分があるとされた役員退職金を受け取った社長の納めるべき税額の方は、どうなるでしょうか。
以前に触れた通り、所得税法上役員退職金はとても優遇されていますので、役員退職金を受取った本人の所得税・住民税負担は少なくて済みます。
そして、この事例のようにもし役員退職金の額が法人税法上過大だと判断されたとしても、所得税法上退職給与に該当するものが支払われたのであって、既に正しく所得税負担の処理が終わっているのであれば、役員退職金を受け取った本人の負担すべき税額には影響は生じません。
つまり、万一過大役員退職金部分があると会社が指摘を受けた場合であっても、本人が納付すべき所得税等の額は増えません。
したがって、役員退職金支給後に万一その一部が過大役員退職金とされたとしても、増えるのは会社が納めるべき法人税等だけであり、本人は所得税法上の退職所得の3つの大きなメリット(「役員退職金支給によるメリットとリスク」で触れた(2)本人にとってのメリットのア)・イ)・ウ))を個人として享受できることには変わりありません。
会社が支給した役員退職金の一部が過大だとされた場合であっても、役員給与として在職中に受けるのに比べて、所得税等が大幅に安くなったり、社会保険料がかからなかったり、という個人のメリットは得られるわけです。
「役員退職金を払った後に、税務調査で役員退職金が過大だと指摘されたら大変なことになると聞いています」と仰る社長さんは多いですが、もし過大だと指摘されたらどういう点でどのような「大変なこと」が起こるのかをきちんと整理して理解しておくことが必要といえるでしょう。
(注)過大役員退職金を支給したことによって法人が法人税を追加納付しなければならなくなったものの法人が納められないときに、法人が滞納した法人税を、過大役員退職金を受給した本人が納めるべきこととなるケースはあり得ます。
(その会社の財産について滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合で、その原因が、滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に会社が過大役員退職金を支給したことに基因すると認められる場合。)
参考条文:国税徴収法第39条に、滞納国税についての第二次納税義務に関する規定があります。
なお、以上は、法人税法上過大であったとしても法人税法上退職給与であると認められるものを社長・役員が受取った場合のお話です。
もし退職給与には該当しないものを会社が支払った場合は、上記の退職所得としての所得税法上のメリットを本人は受けることができないわけですから、その場合は、本人が負担すべき所得税等も増えることとなりますので、混同しないようにしましょう。
退職給与に該当しないものを会社が支払っていながら、会社が「役員退職金」を支給したとして損金計上した結果、税務調査で問題となり、結果として会社も本人も不足分の多額の税金を追加で納める必要が生じるケースも中小企業・小規模企業ではみられます。
実質的には経営者を退任していないのに、退任したとして役員退職金を受給したようなケースです。
これは、役員退職金関連で最もダメージが大きくなるものであり、避けるべきものですので、いずれ詳しく解説する予定です。
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